うつになるのは上司が悪いのか
それとも部下に原因があるのか?
企業の現場で、うつになる社員が増えている。識者やメディアの多くは、その原因を「労働時間」や「成果主義」と関係があると指摘する。しかし、それは本当に正しいだろうか。
連載第9回、10回では、20代の社員が次々にうつになる企業のケースについて分析した。そこでは、上司の未熟なマネジメントによって生まれた非効率な業務体制が、部下を追い詰めていた現状が浮き彫りになった。
そこで今回は、社員がうつになる原因をさらに深く掘り下げてみたい。テーマは「部下がうつになる原因は上司にあるのか、それとも部下本人にあるのか」である。
ひとたび職場でうつの社員が出た場合、社内で「犯人探し」の対象にされるマネジャーや同僚社員も多いだろう。しかし、結局原因がよくわからず、責任の所在が曖昧のままで終わるケースは多い。それでは上司も部下も浮かばれないし、職場の「悶える構造」を解き明かして対策を練ることはいつまでもできない。
そうしたケースでは、本当に上司や同僚に原因があったのか、それとも本人に原因があったのかを、一度検証してみる必要がある。同じような経験をしたことがある読者諸氏には、一緒に考えてみてほしい。
舞台となるのは、ヘルスケアの分野で成長する外資系企業(本社・米国)の日本支社だ。この企業で、30代前半の男性社員がうつになり、退職してしまったケースを紹介したい。現在社員数は約150人で、業績は好調だ。
うつで辞めた部下は、IT部(部員5人、いずれも正社員)に在籍し、直属上司である男性マネジャー(現在42歳)とのコミュニケーションを避け続けていたという。そのマネジャー(ここではA氏と記述する)に取材を試みた。
結論から言えば、今回の取材でも「労働時間」や「成果主義」に関する課題を見つけることはできなかった。代わりに見える課題は、むしろ部下の上司に対する接し方、部下本人のキャリア形成や仕事への姿勢における課題だった。
男性マネジャーとのやりとりについては、よりニュアンスを正確に伝えるため、インタビュー形式とした。取材の内容は、実際に話し合われた内容の9割方を載せた。残りの1割は、会社などが特定できる可能性があることから省略した。