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電子書籍時代を雑誌はどう生き延びるのか
――鉱脈は記事のバラ売りにあり?(前編)

待兼音二郎
2013年10月30日
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『新聞・テレビ最終決戦』(週刊東洋経済eビジネス新書No.08)はKindleストアで200円。「Nexus7」で表示したときに本文は70ページだった

 第2特集に光を当てたいという狙いは、ライバル誌の週刊東洋経済にも共通する。同誌は「週刊東洋経済eビジネス新書」を13年5月17日に創刊し、現在までに29タイトルをリリースすることで、新たなファンを獲得している。

 ところで、マイクロ電子書籍(=マイクロコンテンツ)という発想は、どこから生まれたのか? その端緒となったのは、米アマゾンが2011年1月に、「Kindle Singles」というレーベルをリリースしたことだ。

 Kindle Singlesの狙いは、従来の書籍市場のスキマにあった。作品発表の場としては、雑誌記事と書き下ろし本の二通りがある。だが、紙の本ならどんなに薄くても150ページ程度はないと売り物にならない。同じ値段なら分厚い本の方がありがたみがあるし、あまりにも薄いと書棚で目につかないからだ。だから60ページや80ページという中途半端な作品は、単独では発表するすべがなかった。

 ところが電子書籍なら、本の厚さは目には見えない。短くても、その分安ければ買ってもらえるし、モバイルデバイスで読む電子本には、いつ終わるか先の読めない大長編より、その場で読み切れるボリュームの方がむしろ適している面もある。そこを狙ったKindle Singlesは、13年4月時点で総計500万部近くを売り上げ、現在では436タイトルを揃えている。後にはアップルが「Quick Reads」を、バーンズ&ノーブルが「Nook Snaps」をリリースして、アマゾンに追随した。

厳選記事を提供する
キュレーションの役割も

『THE FUTURE OF MONEY お金の未来』(WIRED Single Stories 003)はKindleストアで162円。Nexus7で本文26ページになる

 この流れにいち早く着目し、他誌に先駆けて日本でレーベルを立ち上げたのが、WIRED誌(コンデナスト・ジャパン)だ。「WIRED Single Stories」を2011年11月25日にリリースし、これまでに15タイトルを揃えている。同誌の取り組みで特徴的なのが、海外版の未訳記事を訳し下ろすという手法だ。15タイトルのうち7タイトルは日本語版収録の翻訳記事、残りが未訳記事となっている。

 それには日本版と海外版の刊行スケジュールの違いがある。WIRED日本版は季刊(2011年6月に再創刊)だが、海外版は月刊だ。日本版は海外版の翻訳記事が主体だが、当然ながら収録できるのはほんの一部。紙幅の都合で日本語版には収められなかった良質な海外記事を、別の形で紹介できないか。思い悩んでいたところに、Kindle Singlesの好調ぶりが伝わってきた。日本でもきっと受ける。そう考えて、マイクロ電子書籍レーベルを立ち上げたのだ。

 だからWIRED Single Storiesには、各国版WIREDの膨大な記事アーカイブから厳選された記事を提供するというキュレーションの役割が大きい。もちろん他誌のレーベルにも、すでに述べたように過去記事を広く読んでもらうという目的はある。しかしWIRED誌の場合には、元記事が英語やイタリア語で書かれているだけに、日本の読者にはよりハードルが高い。それだけに、記事単体を別売りする意義も大きいのだ。また、WIREDというくくりの読み物に日本人が触れる機会を増やすことでファン層を拡大できるのも、他誌レーベルの場合と同じだ。

 紙の雑誌には、ページ数の制約がある。コスト面での制約はもちろん、ぶ厚すぎると読みづらくなり、雑誌としての魅力が損なわれるからという理由もある。WIRED誌は手になじむ絶妙なページ数が魅力の雑誌だ。本誌の価格とぶ厚さをそうして抑えつつ、載せられないものは電子版で別売りする。そんなWIRED誌の取り組みは、未来の雑誌のカタチを先取りしているのかもしれない。

後編(11月1日公開予定)に続きます。

(待兼音二郎/5時から作家塾(R)

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