ネスレ日本100年の歴史において、史上初の生え抜き日本人CEOに就任した高岡浩三氏。「キットカット」受験生応援キャンペーンや「ネスカフェアンバサダー」など、数々の革新的な取り組みを実行してきた。『ゲームのルールを変えろ』(ダイヤモンド社)の刊行を記念して、著書では語り尽くせなかったマーケティングの真髄が明かされる。
高利益率の体質に仕組みを変えてしまう
私は、マーケティングとは、その商品・サービスを受ける消費者に対して最大の価値をつくることだと考えている。そして、その価値を生み出すものが「ブランド」である。
レギュラーコーヒーの場合、利益率が極めて低い。それは、誰でも製造できるからである。ロースターを買い、コーヒー豆を買い、ブレンドして、焼いて砕いて真空パックすれば、店頭に並んでいるレギュラーコーヒーとまったく一緒のものになる。
だからこそ、ネスレは長い間レギュラーコーヒー事業に参入していなかった。一方、インスタントコーヒーは、レギュラーコーヒーと比較すると圧倒的な利益率を誇る。それは、インスタントコーヒーをつくることができるメーカーは世界で3、4社に限られるからだ。
しかし、レギュラーコーヒーの低利益率を理由に、ただ指をくわえているわけにはいかない。そこで、儲かる仕組みに変えるためにはどうすればよいかと、新しいビジネスモデルを作つくり上げた。それが、「ネスプレッソ」だ。
「ネスプレッソ」は専用カプセル式の一杯抽出型コーヒーマシンで、一度マシンを購入したら、専用コーヒーカプセルを継続購入いただくというビジネスモデルである。「ネスプレッソ」はネスレグループの中でも急速に成長している事業だ。
さらに、より手軽で、しかもカフェチェーンのようなメニューもつくることができるようにと始めたのが、第1回でも触れた「ネスカフェ ドルチェ グスト」である。現在、世界の累積販売台数は1300万台を超え、日本でも100万台を突破した。