マーケティングはやってみなければわからない

 なぜ「ネスカフェ ドルチェ グスト」が大ヒットを記録したのか。それには、家族の構成人数が最も大きな理由として挙げられる。

 現在、日本における世帯の約6割は1人もしくは2人世帯だ。また、4人以上の世帯でも、1日1回、必ず家族でコーヒーを飲む機会がある人はほとんどいない。

 かつては、朝食が家族団らんの時間だった。そのため、「ネスカフェ」のCMでも「いつも朝食は家族と一緒に」と伝えていた。しかし、家族がバラバラの時間に出かけるようになり、子どもが学校や塾に行くようになると、帰ってくる時間もバラバラになる。つまり、家族団らんの時間を持ちづらくなっていると言えるだろう。

 すると、いままでのレギュラーコーヒーのコーヒーメーカーは不便になる。なぜなら、家族が2~3人一緒にいて、同時に3杯、4杯分つくるために便利なマシンだからだ。

 従来のコーヒーメーカーでは、1杯分をスプーンですくい、お湯を入れてという淹れ方はできない。ライフスタイルの変化によって、たとえ4人世帯であっても一緒に飲むことはなくなった。ましてや、1人、2人世帯が増えた今日、コーヒーも1杯ずつ淹れるものへと変わったのである。

 だからこそ、「ネスカフェ ドルチェ グスト」や「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」というマシンの需要がある。いつでも、簡単に一杯分ずつ、できたての温かいコーヒーが飲めるからだ。

 ただ、環境変化という売れる理由があるとはいえ、不安要素がなかったわけではない。それは、コーヒーの価格である。

 従来のレギュラーコーヒーの1杯当たりの値段は10円程度。一方、「ネスカフェ ドルチェ グスト」は、ブラックコーヒーの場合、1杯当たり約50円だ。約5倍の価格である。本当にこんな高いコーヒーが受け入れられるのか、それはやってみるまで誰にもわからなかった。

 しかし、実際にやってみると売れた。マーケティングには、とにかくやってみなければわからないことがあまりに多いのである。