ネスレ日本100年の歴史において、史上初の生え抜き日本人CEOに就任した高岡浩三氏。「キットカット」受験生応援キャンペーンや「ネスカフェアンバサダー」など、数々の革新的な取り組みを実行してきた。『ゲームのルールを変えろ』(ダイヤモンド社)の刊行を記念して、著書では語り尽くせなかったマーケティングの真髄が明かされる。
ビッグデータは万能の解決策ではない
私にとって、「マーケティングとは何か」は永遠の課題だ。それほどまでに、マーケティングは奥が深いものだと思う。
最近は、どこに行っても「ビッグデータはこんなにすばらしい」という話になるが、私はその流れに疑問を呈したいと思う。「あえて人と違う視点を持つこと」、これも私流のマーケティングだと考えている。
歴史をたどれば、POS(Point of Sales)データがもてはやされ、「ついに小売業界が変わる」「消費者の行動がわかる」と騒がれたことは記憶に新しい。しかし、その実態に目を向ければ、ほとんど何も変わってない。どれだけ精緻な数値データであっても、マーケティングの課題をすべて解決するわけではないからだ。
私自身、事前調査によるデータと実際の発売後の結果を比べると、まったく違うという経験を何度もしている。
ネスレ日本の副社長を任されたとき、私は、コーヒー事業のトップにも就任した。そのときに実施した「ネスカフェ ドルチェ グスト」の取り組みは、データだけに頼るマーケティングの問題を浮き彫りにするものだったのだ。