PVでもイメージ映像でもない
データを駆使した「モチベーションビデオ」

  アナリストとして活動してきて、情報が「今、武器になった」と実感できた経験がいくつかあります。そのひとつが、ロンドン五輪準々決勝の中国戦前夜、選手とスタッフ全員で観たモチベーションビデオでした。

  2012年8月7日に行われた準々決勝、この日は、私たち全日本女子バレーボールチームが五輪出場権を得る前から「運命の分かれ目になる」と意識してきた日でもありました。過去2大会はこの準々決勝で敗れている。ここで勝てばメダルに手が届くところに進めます。

  そんな“勝負の日”の前日、私はギリギリまでモチベーションビデオの映像編集に追われていました。

 「そんなこともアナリストの仕事なの?」と驚かれる方もいるかもしれませんが、データアナリストである私はモチベーションビデオの制作も行います。

  モチベーションビデオと聞いて、感動シーンをドラマチックな音楽に乗せて次々と映し出すような、結婚披露宴で流れる動画を思い浮かべた人もいるかもしれませんが、実はちょっと違います。ただ気持ちを盛り上げるためだけの映像ではありません。

戦う上で押さえておきたいポイントを
極力、映像と音で表現する

  数ヵ月前から対戦相手を徹底分析して、監督とコーチに盛り込みたい要素を挙げてもらい、過去に通用した展開、気をつけたいポイントなどを過去映像の中から最も効果的に伝わるシーンをピックアップしてつなぎ合わせたもの。

  普段データとして、言葉や数字、図、グラフで表現していたものを、極力映像と音で表現するように試みました。監督やコーチは盛り込みたい要素を、中国だけに限らず、準々決勝の相手が他の国となったときの場合も想定して、長時間かけて必死にピックアップしてくれました。

  当然、選手たちがこれまでやってきたことを振り返って自信につなげるものでもありますので、彼女たちの奮闘努力も映像化します。

  まさに、これまでデータとして積み上げてきた数字が映像になり、選手に伝わる瞬間です。上映会場になったマルチサポートハウスのミーティングルームは、静かだけれど不思議な高揚感に包まれ、映像を見ながら目に涙を浮かべる選手もいました。