そのように、彼女は最低限、命だけをつないできた。同じように、社会的に存在していないように生きている人は、水面下に数多くいることは間違いない。

「被害者は、事件が起きた直後から3年くらいは気遣われると思いますが、その後も長い人生を生きる。そうした生きづらさに対する対処の仕方の1つが、引きこもりという状態なのではないでしょうか」

 そう宮地教授は、指摘する。

「それ以上の傷を受けるのを防ぎたいし、最低限、人に迷惑をかけたくない。できる限り経済的な負担をかけたくないことなども、引きこもりという対処の仕方に含まれているのだと思います」

 せっかく外界に出てきて、何とか支援者の力も借りたりして仕事に就けるようになったとしても、いきなりの変化に無理しすぎたり、疲れてしまったりして再び体調を崩し、また自己の世界に戻ってしまうことはよくある。

 だから、本質的な問題を解決していくうえで向き合わなければいけないのは、こうした引きこもる人たちの背景に隠されたトラウマだ。そして、その後の長い人生を生きる彼らに、ずっとそばで関わり続けていくことが大事なのだと思う。

トラウマからの解放には
当事者同士・家族同士の交流が必要

 では、こうした心の傷に、周囲はどのように向き合っていくのがいいのだろうか。

「環状島モデルを使うとすれば、内海の水位を下げることしかない。そのためには、社会全体が変わる必要がある。ただ、いまの社会は、逆に水位がどんどん上がっている時代。その中で支援する側も、燃え尽きて疲れ果ててしまう。徒労感、無力感に引き込まれている感じがしますね」(宮地教授)

 とはいえ、この沈黙の内海の問題は、自分たちが生きるいまの時代の話。当事者や家族でなくても、他人事ではなく明日は我が身の課題である。

 まず、何から始めればいいかというと、小さなところから声をかけ合い、優しくし合うことが大切だ。そのためには、従来の支援する側と支援される側の関係性を見直していくことも必要ではないだろうか。