最近、ますます引きこもりがひどくなったと明かすのは、神奈川県に住む山崎和郎さん(仮名=38歳)。
ここ1ヵ月ほど、家から出られない状態が続いている。受話器の向こうの声もかすれていて、どこか話をするのがつらそうだ。
ひどくなったきっかけは、「支援団体で無理をしたことかな」という。
山崎さんはこれまで、支援団体に頼まれ、家族や本人たちの相談相手を務めてきた。相談先の窓口に「当事者」がいることは、同じ目線で相談に乗ってもらえるのではないかという意味で、相談者の支援団体への敷居を低くする。
ところが、である。
「相談者より自分の家庭の方がひどい…」
うごめき始めた過去のトラウマ
――相談に乗っていて、疲れちゃった感じですか?
「まあ、そんな感じですね」
「他にも、知らなくてもいいことまで、知っちゃった、みたいな…」
――差し障りのない範囲でいいですけど、知らなくていいことって、どんなこと?
「例えば、自分の家庭が、いちばんひどいんじゃないか、みたいな…」
――相談者の家庭のほうが、マシなように思えたってことですか?
「そうそう、そうですね」
――そのことがショックだったんですか?
「それも、ありますね…」
相談に乗っているうちに、気づいていなかったトラウマがうずいてしまって引き出されることは、珍しいことではない。相手の話を聞いていて、自分の危うさを刺激されることは、往々にしてあることだ。
自分のことだけでなく、家族などの周囲の状態を思い出して、あいまいだった記憶が結びついてしまうような、きっかけにつながることもある。当事者が支援団体の窓口で相談に乗ることは、そうしたリスクも伴うものである。