オープンデータやソーシャルメディアの普及に伴い、データジャーナリズムは「データからニュースを発見し、読者に伝える手段」として世界中のメディアに広がり、人々の生活や政府の方針にも影響を与えるようなニュースが生まれている。後発の日本でも、7月の参院選報道で大手メディアが取り組むなど、浸透しつつある。昨年からデータジャーナリズムに取り組んできた日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)は、日本で実践するためのヒントを探ろうと、9月、先進地のアメリカとイギリスのメディアなどを取材した。本連載では世界のデータジャーナリズムの最新の取り組みや課題を紹介する。第1回目はニューヨーク・タイムズの「汚染水域」報道を送る。(取材・文・撮影/JCEJ)
ニュースはいつも隣にある
水道水が汚染され、子どもの歯が溶け、ヒ素、鉛までも含まれていた……。 ニューヨーク・タイムズが明らかにした全米に広がる「汚染水域(Toxic Waters)」。自分の飲む水は安全か?当然起きる読者の疑問にニューヨーク・タイムズはデータジャーナリズムで解決策を提示した。「あなたの近くで水汚染者を見つけます(Find Water Polluters Near You)」というウェブサイトを公開。自分の住むエリアに汚染源があるか、検索できるようにした。
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「Find Water Polluters Near You」の使い方は簡単だ。窓に表示される州からどれかを選んでクリック。例えばニューヨーク州を選ぶと、排水施設の▽名称、▽所在する都市名、▽最終検査年月日、▽違反件数、▽罰金件数…が一覧となって表れる。掲載されているのは、20万を超える施設のデータ。州などの公的機関ではなく、ニューヨーク・タイムズ自らがデータを収集し、公開した。
このサイトは、2009年9月の記事「罰則なく、汚染拡大(Pollution Grows With Little Fear of Punishment)」に組み込まれている。ヒ素や鉛といった重金属や化学物質で汚染された水道水で、発疹ができたり、歯が破損したりした子どもが実際にいることや、全国的に50万回を越えて水質汚染防止法が破られ、1972年制定の同法が機能していないことなどを浮き彫りにした。