イーロン・マスクPhoto:Chip Somodevilla/gettyimages

イーロン・マスクがなぜTwitter(現X)を買収したのか。それは、ただの気まぐれでも、成金の道楽でもない。世界一の大富豪になってもなお得られなかった「あるもの」を手に入れるためだったのだ。※本稿は、ヤニス・バルファキス著、関 美和訳『テクノ封建制 デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。』(集英社)の一部を抜粋・編集したものです。

莫大な資産とリスクを懸けてでも
ツイッターが欲しかったワケ

 テクノ封建制という言葉と概念が、私たち全員の苦境を理解するために必要であることを説明するのにふさわしい人間をひとり選ぶとしたら、イーロン・マスクだろう。

 抜群に頭はいいが人間としては欠陥だらけで、優秀なエンジニアでありながら、とんでもなく見栄っ張りのイーロン・マスクは、この時代のトーマス・エジソンと言ってもいいだろう。覚えているかもしれないが、一説によると、トーマス・エジソンはライバルを貶めるために象を感電死させたこともあるという。

 スタートアップの墓場と思われている自動車産業や宇宙旅行産業、さらにはブレイン・コンピュータ・インターフェイスにまで革命を起こしたマスクは、数百億ドルという大金を注ぎ込んでツイッターを買収した。しかもその過程で、彼がこれまで製造業者として、またエンジニアとして築いてきたすべてのものを失う危険まで冒して、ツイッターを手に入れたのだ。

 マスクは、今持っているものよりも見栄えのいいおもちゃを欲しがる金持ち坊やにすぎない、と評するコメンテーターも多かった。しかし、マスクのツイッター買収は理にかなっていた。テクノ封建制の論理にしたがえば、マスクの心のうちも、それ以上のことも解明できる。