都市的地域に住む多くの国民が、農業・農村から離れて久しい。しかも、離れた後に農業・農村に大きな変化が生じたために、農業・農村の実態に疎くなった。“農村にいる人の多くは農家”で、それらの“小農は貧農で、環境に優しい農業を行っている”という1960年代以前の古い時代の農業・農村のイメージに、いまも多くの人はとらわれている。

また、土地から離れた都市住民は農業生産を行う技術も資源も持たないので、心の底では食料危機の発生と食料供給に不安がある。農協、農水省、農林族議員から成る農業村の人たちは、このような状況をうまく利用して、高い関税や農業保護を維持するための様々な主張を行ってきた。それはあたかも原子力エネルギーにおいて、「原子力村」が形成されたように、「農業村」の主張として国民の間に浸透している。ここでは、そのような主張の一部を取り上げ、それが誤った「農業神話」であることを明らかにしたい。

主張1:先祖伝来の農地なので、
零細な農家が農地を貸したがらないため、規模拡大が進まない

 主業農家に、兼業農家が農地を貸し出さないことを、農林水産省などは、「先祖伝来の農地なので、それを貸したがらないからだ」と説明する。しかし、そもそも戦後まもなく実施された農地改革でもらった農地なので、先祖伝来とは言えないし、先祖の霊が、土地を貸す時は枕元に出てくるのに、所有権を手放す売却行為の時には妨害しないというのは、いかにもおかしな話だ。“先祖の霊”は都合のよいときに現れてくれる。

 農林水産省はなぜウソをつくのだろうか?兼業農家が農地を貸し出さないことには、二つの原因がある。

 第一に、ヨーロッパと異なり、日本では土地の利用規制(ゾーニング、農地と都市的地域の線引き)が甘いので、簡単に農地を宅地等に転用できる。転用価格(2005年)は、市街化調整区域内で10アール2315万円、農家の平均的な規模である1ヘクタール(1万平方メートル)で2億3000万円の利益である。これは農地を貸して得られる地代収入の2000年分に相当する。大都市周辺地域では、この何倍もの利益となる。土地バブルがはじけた今でも、農家には年間2兆円の転用利益が発生している。