「しかも、成果主義や人員削減などで職場の人間関係はめちゃめちゃになっている。正社員からして、疲れ果てて心がすさんでいるわけです。そこへ派遣が行く。どうなると思います? 働く人たちのうっぷんは、当然、職場ヒエラルキーの底辺にいる彼ら・彼女らに向けられますよ」

 「これからは多様な働き方の時代」。少し前まで、そんな耳触りのいいコピーがテレビでも雑誌でももてはやされた。だが多様な働き方は、多様な「働かされ方」でもあった。結果的に職場には階層社会が生まれ、弱い立場の派遣社員がしわよせをくらっている。

 ただし、この階層社会はまるで入れ子の箱のように、複雑な構造をしている。渡辺さんによれば、ヒエラルキーは派遣社員の間にも生まれているという。正社員が派遣社員をいじめる、という単純な構図ではないのだ。

 自分のストレスを弱い立場の派遣社員にぶつける正社員。ぶつけられた派遣社員が、そのストレスをほかの派遣社員にぶつける。まるで共食い状態だ。

 「きちんと受け入れ態勢を整えない派遣先の問題は大きいが、自衛できない派遣社員にも問題はある」と渡辺さん。同ユニオンに相談してくる人には、派遣法や労働基準法のことをまるで知らない労働者もいるという。

 いざというとき助けてくれる友人を作れない人も多い。ネットの掲示板にしか本音を書けない女性。その反対に、他人との距離の取り方がわからず、相手かまわず依存してしまうという男性。職場だけでなく、プライベートでも人と人との絆が断ち切られている。問題の根は深い。

「犯人探し」では
問題は解決しない

 あなたの職場にも、冒頭の例の「ザリガニ」にあたる人間はきっといるだろう。その人物がいなくなれば、水槽の環境はましになるかもしれない。だが、「犯人探しをしても、根本的な問題は解決しない」と渡辺さんは指摘する。

 「被害者はいつ加害者になるかわからない。この人が、という社員がパワハラをすることもあります。たとえば、仕事熱心で誠実な人が、部下の仕事ぶりを許せず、言葉の暴力をふるうこともある。問題はその人たちをいら立たせている職場環境なんですよ」