麻生首相は予算総額15.4兆円の補正予算案を提示した、3月末に成立した今年度予算88兆円と合わせると、史上最高の103.4兆円にも達する大規模予算である。まさに「歴史的予算」と言えるが、今回はこの予算を遂に作り上げた麻生首相の「こだわり」について考えてみたい。

自称「経済通」麻生首相を支える
JC人脈からの「生の声」

 今回の補正予算の内容を精査してみると、低燃費車買い替え促進のための助成制度や、太陽光発電や省エネ家電購入の補助制度、住宅取得のための時限的な贈与税の軽減などが並ぶ。特に、贈与税の軽減については、既に史上最大規模の住宅ローン減税を実施した上での実施である。これは、「年越し派遣村」の方々のような、住む住宅がないような失業者のための対策ではない。むしろ、ある程度以上お金を持っている人々への支援策だ。ここに麻生首相の「こだわり」があるように思う。

 この連載の第8回に取り上げたように、麻生首相は景気や金融危機を自分の手で解決したいと考えてきた。それは、麻生首相は自らを「自民党随一の経済通」だと信じているからだ。その根拠は、政界では数少ない実業家としての経験で得た経済感覚に対する自負である。

 麻生首相の経済感覚を支えているのが、日本青年会議所(JC)の人脈だ。麻生首相は政治家になる前、1978年度にJCの会頭を務めた。麻生首相はJCメンバーから地方の経済情勢など生きた情報を収集し、それを経済政策立案に生かせている。それが他の政治家と自らの違いだとしている。

 JCとは、20歳から40歳の青年経済人で構成されている組織である。経団連など他の経済人組織と違うJCの最大の特徴は、「年齢制限」である。JCでは、満40才に達した翌年には退会しなければならない。ただ、JCには「世襲経営者のサロンクラブ」だという批判がある。JCの主要なメンバーは二代目・三代目の世襲経営者である。

 そしてJCから経済政策などに画期的な政策提言というようなものが出てきて、大きな話題となったことはほとんどない。しかし今回、麻生首相は相当な「こだわり」を持ってJCからの生の声を景気対策に取り入れた。それがお金を持っている「世襲経営者」を救うような支援策の数々なのだろう。

 麻生首相は元々経済政策については自民党内で異端だった。自民党内には「財政再建派VS上げ潮派」という経済政策の路線対立が存在したが、麻生首相はこのどちらにも異を唱えていた。

 麻生首相は就任後、景気・金融危機対策に取り組み始めるが、自民党内から麻生首相が目玉とした「定額給付金」を巡って不協和音が起こった。「異端」である麻生首相に経済を任せたいと思っている人は、自民党内で少数派だったからだ。むしろ、大衆人気があった麻生首相に自民党の顔として総選挙を戦ってもらいたかったのである。度重なる麻生首相の「失言」などもあり、麻生内閣の支持率が急落したことから、一時自民党内はパニックのような状況になった。