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シリコンバレーで考える 安藤茂彌

クリステンセン教授が指南する人間の幸せ

安藤茂彌 [トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]
【第74回】 2014年1月17日
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 そして読者全員に次のようにアドバイスをしている。まず人生を評価する物差しについて考えなさい。次に、最後になって自分の人生は成功だったと評価できるように毎日を生きなさい。

 この本を読んで2週間ぐらい経った10月下旬に、筆者の身に思いがけないことが起きた。風邪がなかなか治らず長引いているので、都内のある病院を訪れて診察してもらったところ、「肺がん」と診断された。何の予兆もなかっただけに驚いた。肺のCTを見せられたが、そこには間違いなく腫瘍があった。精密検査のために即日入院させられた。あまりにも急転直下の展開に唖然としたが、これが現実だった。

 筆者には当時、約束をした講演がいくつかあったが、すべてキャンセルさせられた。講演を設営してくださった関係者の方々には多大なご迷惑をおかけした。この日以降筆者のすべての時間はがんとの闘いに費やされることになった。精密検査の結果もやはりがんであった。しかも肝臓に転移したステージ4(4段階中の最高位)の肺がんであった。主治医は2種類の抗がん剤を使った化学療法を推奨してきた。転移の状況を考え、早期治療を勧めてきたのだ。

 筆者は決心がつかずにいた。今までシリコンバレーに拠点を構え、年間に最低4、5回は日米間を往復する生活を送ってきた。筆者がウェブ上で展開する事業も、雑誌社に寄稿する原稿も、大学等で講義する内容も、すべてこのライフスタイルを前提にして展開してきたものだ。もし治療しなかったらあと何ヵ月生きられるのだろうか?恐る恐る聞いてみた。1ヵ月ぐらいだと言う。「死」はすでに私のすぐ近くにまで来ていた。自分の人生が「有限の時間軸」に乗っていることを思い知らされた。

 日米に散らかした自分の人生を整理するのに、もう少し時間が欲しい。主治医の方針に従って治療を受けることにした。11月下旬から抗がん剤治療が始まった。現在2サイクル目の治療を受けている。副作用もさほど辛くなく、何とか新年を迎えられたことを喜んでいる。そしてまた「あの本」を読み返してみた。

 「死」と隣り合わせの時間から抜け出て、気持ちの上ですこし余裕ができた。だが、クリステンセン教授が言われるような、自分の人生を評価する物差しを持っていないし、ましてや自分の人生が成功であったなどとはとても思えない。ただ、自分の心の中で何かが変わった。一日一日生きられたことに感謝し、命を慈しみながら生きて行こうと思う。教授ありがとう。私の人生が新しく始まったように思う。

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安藤茂彌
[トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]

1945年東京生まれ。東京大学法学部卒業後、三菱銀行入行。マサチューセッツ工科大学経営学大学院修士号取得。96年、横浜支店長を最後に同行を退職し渡米。シリコンバレーにてトランス・パシフィック・ベンチャーズ社を設立。米国ベンチャービジネスの最新情報を日本企業に提供するサービス「VentureAccess」を行っている。VentureAccessホームページ

シリコンバレーで考える 安藤茂彌

シリコンバレーで日本企業向けに米国ハイテクベンチャー情報を提供するビジネスを行なう日々の中で、「日本の変革」「アメリカ文化」など幅広いテーマについて考察する。

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