私は、政府が今進めようとしている①電力小売事業への参入規制の撤廃、②電気料金規制の撤廃、③電力会社の発送電分離のための制度変更は、改革などではなく“改悪”でしかないと思っている。これは、欧米諸国の先行事例からも明らかだ。
経済産業省が欧米諸国の電力自由化後における電気料金変動分析をすべく、一般財団法人日本エネルギー経済研究所に委託して得た成果である『諸外国における電力自由化等による電気料金への影響調査(平成25年3月)』(以下「経産省委託報告書」)においても、「日本を除く調査対象国では、電力自由化開始当初に電気料金が低下していた国・州もあったが、概ね化石燃料価格が上昇傾向になった2000年代半ば以降、燃料費を上回る電気料金の上昇が生じている」と指摘されている。
この経産省委託報告書の趣旨については、昨年10月7日付け拙稿「電力自由化は電気料金に悪影響と知っていながら経産省が電力自由化に突っ走るのはなぜか?」でも紹介したので、適宜参照されたい。
ペンシルベニア州を事例にして
自由化と電気料金の関係を語るのは無理筋
ところで、経産省委託報告書を材料として、週刊ダイヤモンド2014年1月11日号に「自由化で料金上がるか? 先進国に見る電力改革」と題する論考(著者はATカーニーパートナー笹俣弘志氏。以下「1/11論考」)が掲載されている。
その冒頭で「実際、電力自由化は料金を引き上げるのだろうか」と問いかけた上で、諸外国における電力自由化の先行例について独自の分析を行っている。私は、この1/11論考の主旨は端的には、『電力自由化は、制度の作り込みの巧拙で、電気料金が上がってしまうこともあるし、下がることもある』と理解している。
1/11論考で取り上げた諸外国の先行例は、米国ペンシルベニア州、英国、ドイツの三つだ。これらを選定した理由は「料金上昇の事例として挙げられることの多い」とのことだが、本稿ではこれら三つに関する分析について、逐一吟味していく。過去のある時期における英国及びドイツを電気料金が下がった好事例としているが、そのように評価する妥当性についても考察してみたい。
第一に米国ペンシルベニア州。1/11論考は、ペンシルベニア州では自由化の結果、電気料金が上がった可能性は否定されるべきだと主張している。これは同州の自由化の実態を考えると実に奇妙な主張だ。