女性の発見を発端にする商品開発

 これまでも女性が利用する技術のイノベーションにおいて、女性が開発はしないものの、普及に貢献することはあった。私がかつて取材したIHクッキングヒーター(以下、IH)の例を挙げる(※1)。そこでは、技術を理解することに積極的な女性が重要な役割を果たした。

 IHとは、従来のガスに代わり電気を熱源とする加熱調理機器で、日本では1970年代より開発が始まり、IH自体の技術開発は電気機器メーカーの男性エンジニア中心に行われた。

 1990年代より実用化が始まった頃、IHに興味を持つ料理研究家や料理教室講師の間で、ガスとは違うIHを使った調理の探求が始まった。そこでは「IHでは炒め物を上手に作れない」という問題が浮かび上がった。炒め物は高温で調理することが望ましいので、ガス調理では中華鍋とおたまを使って、素材が最も高温な鍋肌に当たるように煽る方法が良いとされてきたが、IHでは鍋を持ち上げることができない。そして最も高温になる鍋底に素材がくっつきやすいことが問題だった。

 そこで、IH向け調理を探求する料理研究家の脇雅世氏が、IHで炒め物をうまく作る方法を発見した。「シリコン製スパチュラ(調理用へら)2本を両手に持って、鍋底から素材を持ち上げるように混ぜる」調理法である。なぜシリコン製スパチュラかといえば、最初2本の木べらで試したが、先端の平坦な部分で米粒などを挟むと潰れてしまう。その点シリコン製スパチュラだと先端が薄くつぶすことなく攪拌できたからだ。

 彼女はその調理法をレシピ本に著し、すぐには広まらなかったが、後にファッション誌などで取り上げられると、このカラフルで機能的な道具は注目を集めた。また彼女は、IHでの炒め物に適したシリコン製スパチュラの開発も行った。これらはIH自体の普及にも影響したと考えられる。

 ここで見方を変えれば、IH自体の開発は男性主導で行われたが、IHの調理道具の開発は女性主導で行われている。具体的には、IHでの炒め物調理に適したシリコン製スパチュラの開発は、脇氏が実際に炒め物調理をしながら描く理想的なスパチュラの3次元イメージを、協働する男性が計量し、実際のスパチュラの設計図に落とし込み、それをメーカーが工場で大量生産した。

 開発の全工程を見れば、男性と女性の協働で行われたが、開発の発端にある「IHでは炒め物を上手に作れない」という問題発見を、調理する視点で女性が行ったことが重要である。

 IH調理向けスパチュラの開発プロセスを分解しながら、開発への女性の関与について整理すると次のようになる。

 第一の工程は「IHでは炒め物を上手に作れない」というような、使い手の視点からの問題発見、第二の工程は、IHの構造に基づく問題の技術的理解、第三の工程は、問題を解決するスパチュラの形状を特定するプロトタイプ製作、第四の工程は、多くの人に手に行き渡るための大量生産とする。

 第一の工程は女性が行い、第二、第三は女性と男性が協働、第四はおそらく工場の男性エンジニアが行った。使い手である女性の発見を反映した、新しい商品を開発する方法として、このような女性の関与の仕方は、一つのモデルになると考えられる。

図2 IHとIH向け調理道具の開発プロセスと女性の関与