人間は、脳あってこその存在。人の行動、思考、感情、性格にみられる違いの数々は、すべて脳が決めているのです。「心の個性」それはすなわち「脳の個性」。私たちが日常で何気なく行なっていることはもちろん、「なぜだろう?」と思っている行動の中にも「脳」が大きく絡んでいることがあります。「脳」を知ることは、あなたの中にある「なぜ?」を知ることにもなるのです。この連載では、脳のトリビアともいえる意外な脳の姿を紹介していきます。
天才の脳の内部を
覗いてわかったこと
「頭がいいと脳も重いのでは?」と思いがちですが、「脳の重さ」と「知性」は必ずしも一致しません。たとえば歴史上の偉人の脳の重さは、ロシアの文豪ツルゲーネフで2012グラム、ドイツの鉄血宰相といわれたビスマルクは1807グラムでした。
確かにこれは成人平均の1200~1500グラムよりはるかに重いといえますが、だとすれば、ゾウの脳は4000グラムだとされていますから、ツルゲーネフやビスマルクはゾウに劣ることになります。
ほかの例をみてみますと、たとえば夏目漱石の脳の重さは、1425グラムだったとされ、これは成人の平均の枠におさまっています。またフランスのノーベル賞作家、アナトール・フランスに至っては、なんと成人の平均よりもかなり低い、1017グラムにすぎませんでした。
では、偉人と凡人の脳とでは、どこがどう異なるのでしょうか。天才といわれた人間の脳の内部はどうなっているのでしょう。それは脳科学者たちの重大な関心事でもありました。そんな脳科学者の注目を集めたのが、理論物理学者のアインシュタインの脳でした。
相対性理論の提唱者でノーベル物理学賞を受賞したアインシュタインは、20世紀最高の頭脳といわれ、天才の名をほしいままにしました。死後、その遺体が解剖されることになったとき、世界中の脳科学者たちが彼の脳に注目したのは当然でした。しかし、解剖の結果は脳科学者たちを愕然とさせるものでした。
なんとアインシュタインの脳に、凡人との特別な差異は認められなかったのです。ふつうの老人の脳に比べれば多少は大きかったし、老人特有の萎縮の程度も小さくはありましたが、それ以外はふつうの老人の脳だったのです。それ以後、天才と脳との関係は謎に包まれたままです。