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2030年のビジネスモデル

患者の臓器を精密3Dモデルに――手術の成功率を高める医工連携の立役者

齊藤義明 [ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]
【第15回】 2014年2月13日
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 オーダーメイドでも最短で5日間で製作が可能で、価格は、個人のCTスキャンデータから作るフルオーダーモデルで約40万円まで低下が可能になってきた。普及のブレイクスルーポイントは今後、保険適用になるか否かだ。

 クロスエフェクトでは、平成28年度の保険適用を目指し、国立循環器病研究センター(白石公小児循環器・周産期部門長)と共同研究で、術前シミュレーションの臨床実験を進めている。

高度な手技の伝承が難しくなりつつある医療界

 竹田さんの夢は、今の画像診断がいずれ実モデル診断に変わり、あらゆる手術にあたりまえのように使われることである。「実モデル診断なしに手術することは、やがてカーナビ無しで自動車を運転するのと同じようになる」と竹田さんは言う。

 実モデルがあれば、医師による術前シミュレーションだけでなく、患者とのコミュニケーション(インフォームド・コンセント)にも使える。さらに術中のナビゲーターとしても効果を発揮する。隣に実モデルを置いて参照することで、臓器内部の位置関係が見える化され、手術効率が上がるのだ。

 さらに言えば、術後観察にも役立つと考えられる。つまり実モデルは、術前・術中・術後の各局面にわたってフル活用されることになる。

 たとえ神のような優れた手技を持つ医師でさえも、55歳を超えたあたりから一般には視力が衰えてくる。後継者育成は医療の領域でも重要課題である。しかし、医療界では高度な技(ワザ)の伝承が難しくなる理由ばかりが増えているようだ。

 たとえば、手術はガラス張りの監視環境の中で執行せねばならず、医療訴訟が社会問題化している。また動物実験も厳しくなっている。こうした流れの中で、若い医師たちに高度な技を引き継いでいくためにも、実モデルの存在は欠かせないものとなるだろう。

「私を生かしてくれて、ありがとう」

 クロスエフェクトに、心臓シミュレーションモデルの案件が持ち込まれたのは、四年半前だった。当時、腕利きの技術者はこう言った。「このクソ忙しいのに、なんて難しいものを社長は持ってくるんだ。内壁なんてどうやってくり抜いて再現するんだ?しかも無償でやるって社長は一体何を考えてるんだ!」

 その反対派だった技術者は今や深夜まで小児用の小さな心臓を作っている。「明後日が納期です。こんなに小さな心臓が病気と闘っていると思うと、なんとしても仕上げなくてはなりません」。

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齊藤義明
[ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]

ビジネスモデル研究者、経営コンサルティング会社勤務。政策・経営コンサルティングの現場でこれまで100本以上のプロジェクトに関わる。専門は、ビジョン、イノベーション、モチベーション、人材開発など。

2030年のビジネスモデル

未来のパターンを作り出す企業は、はじめは取るに足らないちっぽけな存在だ。それゆえに、産業の複雑な変化の過程で、その企業はときに死んでしまうかもしれない。しかし個別企業は死んでも、実はパターンは生き続け、10年後、20年後、新しい現象として世の中に広がる。2030年の日本につながる価値創造のパターンとは何か。現在さまざまな領域でその萌芽に取り組む最前線の挑戦者たちとのダイアローグ(対話)。

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