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リーダーは自席に部下を呼びつけるな――30代・経験ゼロから300億円事業をつくった「伝説のマネジャー」の仕事術

赤井 誠 [MKTインターナショナル株式会社 代表取締役社長]
2014年2月25日
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 その疑問が氷解したのは、HP社史を扱ったビデオを見たときのことだった。その映像には、夜中まで残業して製品テストをしている社員のところを、共同創業者デビッド・パッカードがたまたま通りかかるシーンがあった。

 それを観ながら「なるほど」と思った。人手が足りないことに気付いたデビッドが、その場でいきなり製品テストを手伝いはじめたのである。

 よくよく考えてみると、上司に対する匿名フィードバックを以前求められたときにも、「仕事を依頼するときに、上司はあなたの席に来ますか?」といった趣旨の質問事項が含まれていた。

 つまり、上司が自ら部下のもとを訪ねて、状況を自分の目で確かめながら、ビジネスをリードしていくというスタイルは、創業者から受け継がれているHPの文化だったのだ。

 上司がぼくをデスクに呼びつけなかったのは、HPのなかで脈々と受け継がれてきたマネジメントスタイルだったのだ。

 それが「歩き回るマネジメント」(MBWA ―― Management By Walking Around)と呼ばれていることを知ったのは後日のことである。MBWAは、上司と部下のあいだの上下関係を極力なくして、オープンで中立的なチームを実現する創業者が作り上げたマネジメントの手法の一つだったのだ。

 ぼくは、そんなHPで、約20年間勤務した。入社以来長らく、工場でソフトウェアの開発者として製品開発するというかなりビジネスの現場から遠い環境に身を置いていた。その後、部署移動によりマーケティング部門で活動する。まだまだ新米マーケティングであったぼくが、偶然により、三十代半ばに全社プロジェクトでLinux事業をリードすることになる。

 Linuxとは、1991年、フィンランドの大学生(当時)であったリーナス・トーバルズ氏が開発したオペレーティングシステム(OS、基本ソフトウェア)である。Linuxは、世界中の多くのエンジニアが開発に参加し、また利用することができるフリー・オープンソースソフトウェアとして、今や世界中のあらゆる領域で利用されている。

 例えば、読者のみなさんが使っているAndroid携帯の基本ソフトウェア、東京証券取引所の取引システム、Googleの検索システム、ニコニコ動画のシステムなど、社会基盤の一部として活用されるまでになっている。ぼくが担当した当時は、まだ大企業の一部で基幹システムに採用され始めたばかりだった。

 日本HPのLinux事業は、国内市場では、競合に比較して、シェアが最下位、社内での問題は山積し、HPグローバルからも、あまり評価されていないものであった。

 そのビジネスが、売上数千万から数百億にまで成長し、国内市場でシェア1位、HPグローバルでも、世界ナンバーワンを記録するまでになった。そのような背景から、いろいろな国から、HP社内だけでなく、社外のパートナーからも、何かあったら、「Makoに聞くといいよ」ということをいってもらえるまでになった。

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赤井 誠
[MKTインターナショナル株式会社 代表取締役社長]

ITマーケティングコンサルティング等。京都大学工学部卒、神戸大学大学院経営学研究科修了。キャリア・デベロップメント・アドバイザー。
日本ヒューレット・パッカード株式会社に入社後、ソフトウェア開発を経て、2003年からLinuxビジネス立ち上げのリーダーとなり、日本HPをLinux No.1ベンダーに導く。2010年より、株式会社サイバーリンクスにて新規事業開発に従事。2011年4月 MKTインターナショナル株式会社を起業し、現職。 『マックで飛び込むインターネット』(翔泳社) の執筆以降、ライター活動も実施中。『リーダーにカリスマ性はいらない』(中経出版)、『MySQLクックブック』『JBoss (開発者ノートシリーズ) 』(オライリージャパン) など著訳書多数。
ブログ:あかいまことのブログ
Twitter id: mktredwell

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