関わる地域が増えれば、
愛着を持つ場所も増え、生活も豊かになる
馬場 米田さんも「ノマド・トーキョー」という、1年間、家もオフィスも持たずに仕事をしながら、旅するように暮らすという生活実験をされていましたが、実際にやってみていかがでしたか? マンションを引き払って、家も家財も持たず、ソーシャルメディアの縁を辿ってシェアライフを送るという暮らし方は『僕らの時代のライフデザイン』という著書でも紹介されていましたね。
米田 僕は大学を卒業後、ミュージシャンを目指し、フリーター、非常勤職員、派遣社員、正社員、フリーランスの編集者・ディレクターになって……37歳の時に将来に対して危機感を抱いたことをきっかけに、人生をもう一度「デザイン」しようと「ノマド・トーキョー」を始めたんです。
東京各地を移動し、泊めてくれるという人の家やオフィスを渡り歩いたんですが、複数の「拠点」を行き来することで、世の中には、有名ではない普通の人でも、働き方や暮らし方を自分でデザインして生きる人がたくさんいるんだということに気づきました。ライフスタイルは、誰が何て言おうと自分次第で自由に設計できるんだと。そのことを、本にまとめて、馬場さんにも登場してもらいました。
馬場 私以外にも、東京と田舎との二地域居住をしている人もいれば、海外と東京の二拠点で活動している人もいたりと、住む場所を自由にデザインしている人が多かったですね。
米田 本ではライフデザインの実践者を“ライフデザイナー”と呼びましたが、彼らがその「場所」や「人」にたどり着くには、最初に「行動」があったというのが共通点だと思います。外から見ると、吸い寄せられるように偶然その場に向かっていますが、まず自分のやりたいことがあって、浮かんできたそれを実現するための小さな仮説を実際に行動したことで自分の感覚が磨かれ、「その場所」に対してピンとくるみたいです。
最終的に馬場さんが、紆余曲折あっても南房総にたどり着いて、自分の理想とする暮らしをつくれているのは、やっぱり仮説だけじゃなくて、行動したからなんだと思います。すると、得られる情報や手応えはまったく違ってきますから。
馬場 南房総の家にたどり着くまでに、何度もピンとくることはあったんです。でも振り返ると、その時々で確かにピンときたと思っていても、今の感覚からするとそのピンは甘くて。自分の成長度合いによってピンとくるものが違うんだと思います。理想的な住まいを求めて、2~3年で見る目が養われていく過程も、面白いなぁと思います。
米田 縁もゆかりもないところに呼ばれるように行くことって、誰にでも起きることだし、すごく面白いですよね。僕も最近、その感覚に近い経験をしました。
2013年末、『ナリワイをつくる』という本も出している友人の伊藤洋志くんが、北海道・室蘭の使われなくなった一軒家をもらうかもしれないという話があって、一緒に見に行きました。北海道=情緒がある街だと思っていたら、完全に鉄鋼業の土地だし、商店街はシャッター街になっている。ところが足を踏み入れたらもう、愛着がわいてしまって、このシャッター街にギャラリーを作ったらどうなるだろうとか、カフェが作れそうだとか、1度行っただけで、しかも新千歳空港から1時間半もかかる不便な場所なのに、もう室蘭のことが気になって仕方がない。
馬場 旅行でもそうですよね。北海道に行けば北海道が、沖縄に行けば沖縄が気になります。天気予報をチェックしちゃったりしません? そんなふうに、旅した場所を起点に多地点に愛着を持つようになると、いろんなことに考えがおよんで、生活が豊かになる気がします。それが私の場合、いろんな場所……多地点ではなく、まず一地点、気になるところができて、そこに色を濃く塗り重ねていっているということなんでしょうね。
米田 今や馬場さんは、NPO法人「南房総リパブリック」を立ち上げて、「洗足カフェ」まで運営して、里山暮らしを内側から発信するほど南房総どっぷりですよね。僕も馬場さんの里山教室に行ってみなければ分からなかったですよ、別荘気分で二地域居住をするのとはまったく違う、ここに根を張るんだという本気度は。
馬場 地元の人には、こんな本まで出して、簡単に抜けられなくなるよって言われました(笑)。