知識ゼロから始める週末田舎暮らし
その理想と現実

米田 都市と田舎のデュアルライフって、情報にしてしまうとどうしてもおしゃれなイメージが付くから、現実と違ったものとして受け止められやすいですよね。「湘南ライフ」とか「房総生活」とかいうと、おしゃれ志向の強い一部の人向けの暮らしに見えてしまう。でも、馬場さんが本で書かれていたとおり、現実の田舎暮らしは、草はぼうぼう、家はボロボロ、東京との行き来は疲れるという現実も待っているわけですよね。

馬場 虫も出ればイノシシも出るし、4月から10月まで、1年の半分以上は草刈りをしなくちゃいけません。金曜日に仕事が終わり、子どもたちが保育園や学校から家に戻ると、食事やお風呂を済ませ、月曜日の支度をさせて、宿題や遊び道具を持たせ、パソコンやらカメラやら必要なものを用意し、大わらわで車に乗せてアクアラインを越えていく…。しかも、夫は多忙でなかなか一緒には出掛けられないという現実もあって。

米田 本にも書かれていましたが、二地域居住の言いだしっぺで、田舎暮らしを強く望んだはずの旦那さんが、ふたを開けたら一緒に行けないことも少なくないという(笑)。

馬場 そう、私が運転手でオーガナイザーにならざるを得ない(笑)。それでも、往復のドライブ中には自分に向き合う時間が持てるし、行き来することで、東京では“脳的生活”を送り、南房総では“農的生活”を送っているということがそれぞれ自覚できるんですよね。逆に南房総から東京に戻ると、草刈りやイノシシなど自然の猛威に直面する暮らしではないラクチンさを感じる。どちらの暮らしもいいところと大変なところがあるんですが、それを味わい分けながら生活自体を俯瞰する癖がつくことで、心が自由になっていく、というかんじがありますね。

 ただ周囲からは、なぜそんな大変な暮らしをわざわざするのかと物珍しがられるし、実際に私たちのような生活を送っている人はあまりいないと思います。だからこそ、二地域居住の始め方から実践までを、どうやったら人に伝えられるか本にするのが難しくて…。気軽に始めようとも言いにくいし、現実は厳しいんだよと脅すだけとも違う。人それぞれやり方は違うので、この本ではあくまで個別解として、自分の迷いや喜びを背伸びせずに書いたつもりです。

米田 馬場さんも、やすやすと今の生活を手に入れたわけではないんですよね。理想の暮らしを実現できるような田舎の物件探しも、かなり苦労されたみたいで、本ではゼロからインターネット検索で始めたと書かれていましたね。

馬場未織さん

馬場 最初は本当に知識ゼロの素人でした。東京で生まれ育って、学生時代も東京で過ごし、東京の会社に就職して、結婚してからも東京で暮らして。夫は普通の会社員だし、私だって建築ライターとして東京で働いている。そのうえ夫婦ともに親が地方出身者ということでもないので、よく聞く祖父母が住む田舎に遊びに行く、ということすらしたことがなくて。

米田 だからネットにあふれる「田舎物件」情報を比較し、そうした物件を扱うサイトに自分たちが望む条件を伝えてメールを出し、いいと思ったら足を運び、地元の不動産屋と駆け引きをし、交渉するうちに考え方や探すポイント自体も変わっていくわけですね。

馬場 何軒も物件や不動産屋を回るうちに、伝え方を変えてみたり、うまく駆け引きできない自分にイライラしたり…。

米田 そういうドキドキする知識ゼロからの始め方というのが、本からとても伝わってきました。実際にネットの情報を起点に現場に踏み出して、暮らしを始めてみれば、現実的にできないわけではないということなんですよね。他人に安易に勧められる暮らしではないのかもしれませんが、昔ほどハードルが高くなってはいないし、実際に今は馬場さんみたいにデュアルライフを実践している人も決して少なくない。馬場さんの場合は、共働きで会社勤め、その上子どもが3人もいるわけで、決してフットワークが軽いとは言えない家族ですよね。