こうして見ると、第一次内閣のときと比べて安倍さんには余裕が見える。今は自ら言ったことが「ちょっと違うな」と感じたら、柔軟に軌道修正をしているように感じます。

 そもそも96条の先行改正の話が出たときに、「衆参両議院の3分の2以上の賛成」という発議要件、「国民投票における過半数の賛成」という承認要件が、諸外国と比べてハードルが高いか低いかなんて、わかっている国民は少ない。その発議要件を「過半数」に改めるべきかといった議論が行われても、我々は理解できないし、情熱も持てません。

96条の先行改正はテクニック論
国民の心には情熱が届かない

――では、国民に改憲への情熱を持たせるには、どうしたらいいでしょうか。

 たとえば、昨年公開された映画『リンカーン』にもヒントがあります。リンカーンは米国で奴隷制度を廃止した大統領として有名ですが、彼が「修正第13条」という奴隷制度に関する憲法の条文を改正しようとする姿を描いたストーリーです。

 与党内で意見が分かれ、野党も反対するなか、議会で過半数となる3分の2の賛成を取り付けるべく、リンカーンは孤軍奮闘する。その際、「なぜ奴隷制度をなくさなければいけないか」を、議員1人1人に対して丁寧に説得していった。そのとき、もし安倍首相のようなやり方をしていたら、おそらく説得は失敗し、米国の奴隷制度は廃止されなかったでしょう。

 安倍首相が「憲法の何条を変えて日本をこうするんだ」というビジョンを真摯に語れば、納得する人もいるでしょうが、「まず96条の3分の2を過半数にしよう」と言っても、それはテクニックの話であり、ビジョンとは受け取ってもらえない。むしろ国民の猜疑心を誘発し、改憲のハードルを上げてしまう。

――安倍首相が本当に目指しているのは、おそらく9条の改正でしょうね。それをやり易くするために、96条の先行改正を打ち上げた、と。

 そうだと思います。ただ、こういう状況なら、むしろ国民の心理的なハードルが低い9条改正を先に訴える方が、近道だったでしょうね。