「悔しくて仕方がない」。
ある首都圏の日産自動車系のディーラーの営業マンは唇を噛んだ。
毎年、新車販売のピークを迎える年度末の3月。その営業マン氏が偶然、自分が勤務する店舗から数キロメートルにも満たない近隣のホンダディーラーを覗くと大勢の客でにぎわっているではないか。
その客足はどう見ても自社の店舗より、少なくとも2~3倍は多い。客の目当ては、紛れもない。話題のハイブリッド車「インサイト」である。しかも、遠目から15分間ほど眺めていると、偶然なのか、来る客の大半は「ティーダ」「ノート」「マーチ」などの日産自慢の低燃費車で乗り付けている。その営業マン氏は「まるで、妻の浮気の現場を眺めているような陰鬱な気分になった」と苦笑する。
無理もない。ただでさえ、低迷している国内自動車市場において、昨今の明るい話題は、ハイブリッド車に関するものだけである。
周知の通り、トヨタ自動車「プリウス」とホンダ「インサイト」の“一騎打ち”が世間の関心事。ハイブリッド車を持たない日産は完全に“蚊帳の外”といった感があるからだ。
ある有力トヨタ系ディーラー首脳は「2009年度の国内販売では、ハイブリッド車を持たない日産は大苦戦を強いられるのは間違いない。もはや日産は我々の敵ではない」と辛らつに評する。
冒頭の営業マン氏も「日産にもハイブリッド車があれば……」と、つい本音を漏らす。
かつて日産は“技術の日産”といわれ、高い技術力を有したが、環境技術に関しては出遅れ感が否めなかった。
特に、ハイブリッド車に関しては、カルロス・ゴーンCEOは「所詮、ニッチにすぎない」と判断し、完全に出遅れてしまった。
当時の日産は再建途中でもあり、経営の健全化を最優先したという事情もあるが、技術的に最先端を走っていたはずの電気自動車でさえも、発売時期では三菱自動車(今夏に発売予定)に先を越されてしまう結果となった。日産の独自のハイブリッド車、電気自動車の発売予定は2010年。今年はまさに、“端境期”に相当するのだ。
もはや、2009年度はトヨタ、ホンダを相手に、完全に白旗を揚げ、座して死を待つだけなのか――。日産系の複数のディーラー関係者の話を総合すれば、こんな“あきらめムード”が漂っていた。