受託出版B社のA社長は、30年にわたる腕利き編集者としての経験を生かし、50代になって自ら出版社を立ち上げた。筆者は、彼の起業家としての力量には感銘しつつも、そのあまりにもずさんな財務管理に思わず閉口してしまう。「好きな仕事をしたい」というだけでは会社経営は立ち行かない。まずはそこから改善――。中小企業が、社長の経験とカンによる経営から方向転換していく様子を見て行こう。
【CASE2】出版社 B社
・創業 1982年4月
・社員数 9人
・売上推移 559万円(1996年3月)→3400万円(2008年3月)
・事業概要 個人書籍の受託出版
東京・新宿区にあるB社は、一般の人からの受託出版や大学教授ら研究者の学術論文の書籍化を請け負う小さな出版社だ。とくに研究者には、博士論文などを書籍にまとめたいというニーズがあり、かつ、それが専門的な内容の書籍であっても、多少は市販してみたいという要望も寄せられる。
一般人には難しい学術論文を、書店に並ぶ書籍に仕立てる作業には、プロの編集者と、書籍を発行できる機能を持った版元の力が欠かせない。B社はこうした類の本の編集作業を受注し、書籍流通ルートに乗せることができる。そうした意味では、ニッチな市場を開拓し、他者が追従しにくい商品を送り出してきた“目の付けどころのよい”企業といえる。
資本金1,000万円、年商500万円!?
私が友人からの紹介でA社長に会ったのは今から10数年前だった。経営に行き詰まり、経営難に陥っている会社があるというので、一度会って話をしてほしいといわれ、いわれるままに社長に会ったのが最初だった。
早速、決算書など財務関連の書類を3年分見せてもらう。
――何だ、これは!?
驚いたことに、株式会社であるにもかかわらず、年間売上が500万円程度しかないではないか。
資本金が1000万円で年間売上が500万円という会社は、さすがに私も見たことがなかった。「利益」ではない。「売上」である。