今日の経済環境下、小さな会社の生存競争は厳しさを増す一方だが、財務諸表を精査し、ムダを一つひとつ潰していくことで経営基盤を強化していくことは十分可能だ。ただし、経営者にありがちなのが、業績回復の初期段階で自社の実力を過信してしまうこと。今回登場するC建設会社は、まさに社長の根拠なき業績回復への過信が同社を倒産の憂き目へと誘った事例である。
【CASE3】建設会社 C社
・創業 1986年
・社員数 32人
・売上推移 約6億円(2005年7月)→約4億5,000万円(2007年7月)→倒産(2008年7月)
・事業概要 水道施設工事業
東京にあるC建設は、おもに自治体の水道施設の工事の入札で仕事を獲得し、着々と成績を伸ばしてきた。A社長は東北出身のまじめな働き者であったが、年齢とともに少しずつ自分の役割を2人の息子たちに委ねるようになっていった。
私がA社長と知り合ったのは、同社に長く勤める経理担当者からの紹介だった。長年経理の仕事をしてきただけに、彼はこの建設会社に何が足りないのかをよく把握していた。
自治体の水道・土木工事は、おもに指名参加による業者選定方式が採られている。指名参加とは、公共工事を受注するため、入札により建設工事を受注することだ。参加する業者には、毎年黒字決算を出すことが課せられている。
第1章 赤字決算
ところが、C建設の決算書を見て、私は度肝を抜かれた。欠損金の繰り越しがあり、したがって相当の赤字決算となっているではないか。おもに公共工事の受注で食べている同社にとって、これでは生命線を絶たれたも同じである。
何がよくて何が悪いのか、はっきりと指摘していかなければならない。さっそく経営状況を分析してグラフを作成した。どのようにして変革していくか、方針を明らかにするためである。
「外注費がかなり多くなっていますね。これらについて細かく分析する必要があります」
当時、C建設では手書きで経理処理を行なっていた。毎日伝票を作成し、それを帳簿に転記し、残高試算表を作成するという時間のかかる作業をこなしていた。数字をまとめる作業だけで手一杯、検証する時間も労力もなく、結果として、決算期になって出来上がった決算書をまじまじと眺めるだけに終始していた。