大手電機メーカーを51歳で退職後、米国に渡ってMBAを取得したT氏は、帰国後の2001年、インターネットを介して企業間の電子取引を支援する会社を立ち上げた。当時は日本で普及していなかった米国での先進ビジネスモデルに勝算を目論んだものの、予想に反して会社は大赤字に転落。顧問税理士である著者は、会社再生のためには、T社長が固執している、とある「こだわり」を捨てるようアドバイスする。
【CASE1】 企業間電子取引サービス提供 A社
・創 業 2001年3月
・社員数 9人
・売上推移 3414万円(2006年3月)→5581万円(2009年3月)
・事業概要 インターネットによる企業間電子取引システムの提供
・主要顧客 製造業大手
社長の決断「オーダーメードをやめる」
「社長、販売戦略の転換が必要だと思われます」
――私はこう切り出した。
米国では先行して発展していたインターネットサービスの一つだけに、サービス自体には将来性があると思っていた。しかし、日本の市場に受け入れられるには、売り方やそれに伴うメニュー構成の変更が必要だと私は感じた。
「販売戦略、ですか…?」
資金繰りに頭を抱えていた社長は、私がいきなり「販売戦略」の話を切り出したので少し驚いたようだった。
「どうしたらいいでしょうか」
T社長はここへ来て私の話に耳を傾け始めた。
「たとえば、オーダーメードでサービス提供を行なった場合、一からシステムを構築する必要があります。財務諸表を見ると、それが人件費はじめ、莫大なコストの元凶になっているようです」
実際、A社のコストの大半は、人件費等の固定費であった。オーダーメードにこだわりすぎて、一つのシステムを構築するのに、人件費がかかりすぎているのは一目瞭然だった。
「だからといってうちの売りであるオーダーメードをやめるわけにはいかないでしょう。たしかに費用がかかり過ぎていることは認識していますが、オーダーメードとなるとそれなりに費用がかかります」
押し問答が続いた後、私はある提言を行なった。