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スマートフォンの理想と現実

モバイルの高度化は構想から実現、普及へ
いよいよ動き出した産業の地殻変動

――モバイル・ワールド・コングレス(MWC)2014レポート【後編】

クロサカタツヤ [株式会社 企/株式会社TNC 代表]
【第60回】 2014年4月10日
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 なかでも彼ら自身が期待しているのは、自動車のようだ。Tizenブースで開発者と立ち話をしたときにも、「クルマに近づいていきたい」と語っていたが、確かに自動車はスマートフォンと違い、自動車メーカー自身がエコシステムを作る傾向が強い。従って、Tizenとしては、純粋に情報系の基盤を提供するだけで、一定の役割と果たすことができる。

これはCESでも感じられたが、ウェアラブルの本命は、時計やめがねのような身体に密着させるガジェットではない。正直、いま取りざたされているウェアラブルデバイスは、とても恥ずかしくて身につけられたものではない。腕時計型と言ったところで、腕時計を身につける習慣を奪ったモバイル産業が、再び腕時計を提案するというのは、滑稽そのものでさえある。

 本命はおそらく、自動車の情報化だろう。そのときにTizenが既存のスマホOSに比べて、よりクルマに寄り添った情報環境を提供する技術として返り咲くかもしれない。なにしろTizenの源流の一つであるインテルのMeeGoは、自動車の情報系への組み込みOSとしての用途を当初想定していた。もともと親和性はあるし、ニーズもある領域で、生き残こりを目指す可能性は、十分にある。

産業変革の素地は整った

 この他、通信事業のビジネスモデルに大きなインパクトを与えるインフラ側の動き、あるいは5Gを巡る動きの事実上の停滞など、モバイルの産業構造の変革につながる、様々なトピックがあった。

SAPのビッグデータのデモ Photo by Tatsuya Kurosaka

 そのすべてを紹介することはできないが、ビッグデータに関する取り組みとして、ERP大手のSAPが、サッカーの試合を題材にしたビッグデータ関連のソリューションを展示していた。スタジアムに設置した広角カメラで選手の動きを把握、リアルタイム分析し、戦術に反映させるというものである。

 それ自体もすでに欧州のサッカーチーム等に提供しているが、それは当然デモンストレーションである。ヒトやモノにつけたセンサーによるInternet of Things(モノのインターネット)技術によるモニタリングと、収集したデータのリアルタイム分析が、すでに提供可能であることをアピールすることが、彼らの本当の狙いだ。

 モバイルの高度化は、当然その先にある社会への応用を活発化させる。数年前は構想に終始していたこうしたサービスも、すでにソリューションとしてMWCに展示されている。ということは、これらのサービスは数年後には社会に広く普及していることになるし、その頃のMWCはまた違ったビジョンが提示されているのだろう。

 そうした応用面の拡大による産業の地殻変動が、今年はいよいよ動き出したというのが、全体の印象である。こうした話は、今後改めて紹介していきたい。

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クロサカタツヤ
[株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学特任准教授]

1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修了後、三菱総合研究所にて情報通信分野のコンサルティングや国内外の政策調査等に従事。その後2007年に独立し、現在は株式会社企(くわだて)代表として、通信・メディア産業の経営戦略立案や資本政策のアドバイザー業務を行う。16年より慶應大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。


スマートフォンの理想と現実

2011年はスマートフォンの普及が本格化する年になる…。業界関係者の誰しもがそう予感していた矢先に発生した東日本大震災は、社会におけるケータイの位置づけを大きく変えた。しかし、スマートフォンの生産に影響が及びつつも、通信事業者各社はその普及を引き続き目指し、消費者もまたそれに呼応している。震災を受けて日本社会自体が変わらなければならない時に、スマホを含むケータイはどんな役割を果たしうるのか。ユーザー意識、端末開発、インフラ動向、ビジネスモデル等、様々な観点からその可能性と課題に迫る。

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