保守色の強い「やりたい政策」は、どれも国家のあり方の根幹にかかわり、国論を二分している重大な問題である。連立与党内や野党との慎重な議論を通して、国民の理解を深め、コンセンサスを形成しながら進めていくべきものだ。しかし、昨夏の参院選での圧勝で「ねじれ国会」が解消した後、安倍首相は議論を軽視し、数の力で押し切る暴挙が続いている。

 一方、安倍政権が当初「やるべき政策」として最優先課題としていたはずの、東日本大震災からの復興と経済政策は進んでいない。昨秋の臨時国会は「成長戦略国会」と名付けられていたはずだった。だが、特定秘密保護法一色となり、その名称は有名無実化してしまった。また、安倍首相は「やりたい政策」実現のために、自らと近い考えの有識者を集めるなど人事権を乱用している(第79回を参照のこと)。首相は、高い内閣支持率と圧倒的な巨大与党の数の力に驕り、国民が望む「やるべき政策」を軽視し、「やりたい政策」をなんでもできると思いこんでいる、という批判が出てきている。

安倍首相は驕っているわけではない:
「やりたい政策」実現の環境を作ろうとしていただけ

 筆者は、安倍首相が驕っているわけではないと思う。「やるべき政策」から「やりたい政策」優先に方向転換したわけでもない。むしろ、首相は政権発足時から、「やりたい政策」しか眼中になかったのではないだろうか。安倍政権の経済政策・アベノミクスとは、高い内閣支持率を維持して「やりたい政策」を実現する環境を作るために、行われてきたものだということだ。

 安倍首相は「第一次安倍政権」の失敗から多くのことを学んだとされている。その1つが、「高支持率」を維持することの重要性だったのではないか。第一次安倍政権は、政権発足時から、愚直なほどに「やりたい政策」実現に突き進んだ政権だった。「戦後レジームからの脱却」をスローガンに、歴代自民党政権が成し遂げられなかった「教育基本法改正」「防衛庁の省昇格」「国民投票法」などを真正面から掲げたのである。