経営を立て直すため、神谷さんは雪印ばかりではなく、ほかのメーカーの商品も扱うよう、両親に薦めた。だが、業界には伝統的に併売を好まない雰囲気があり、両親はなかなか踏み切れなかった。

 加えて、両親を躊躇させていたのは金銭的な負担だ。販売店がメーカーと取引するためには、取引先のメーカーごとに月商の2~3ヵ月分を保証金として積まなければならない商慣習がある。高齢の両親にそんなリスクをおかす気力はなく、見かねた彼女が貯めていた財形貯蓄を保証金に回し、自らも経営に参加するようになった。

「30歳という区切りを迎えて会社をやめようかどうしようか迷っていた時だったので、だったらちょうどいいかと。転職も考えたのですが、ここはやるしかないかと腹をくくりました」

午前2時から配達開始!
伸びる契約件数、そして激減する体重

 牛乳販売店の仕事は、おそろしいほど朝型である。

「起床はだいたい午前1時くらい」

 朝というより、もはや夜。

 宅配便のような時間指定がある訳ではないが、それでも、ある程度決まった時間帯に配る必要はある。たいていは「午前7時までに全戸配り終える」という目安で動く。

「というのも、その時間を過ぎると極端に交通量が増えるんです。通勤車両が走っているなかで停車しようとすると邪魔になりますし、自分もやりにくい。そんなこんなで逆算すると、だいたい午前2時くらいから配り始めないと間に合わないんです」

 午前2時、配達用の車両に商品を積み込んで営業所を出発する。近年は安全と衛生面から商品とほぼ同量の蓄冷材(保冷剤)が必要となる。蓄冷材はメーカーから1個80円で買っている。販売店の負担になるため、できれば回収して再利用したいのだが、回収できないケースも多い。

 牛乳販売店を経営するにあたって重要なのは、配達のためのコース作りだ。会社を辞めて事業に参加したばかりの頃は、限られた時間に何軒配れるか限界を知らなくてはならないと思い、自ら開拓した配達先を次々とコースに組み入れていった。「もうこれが限界だ」と感じたのは、1コースあたり240軒だったという。

 配達が終わって事務所に戻ると、後片付けや伝票整理が待っている。そのうち、新規開拓のために雇ったアルバイトも通勤してくる。アルバイトに指示を出しながら、新規顧客の対応などもする。加えて、幼稚園や企業など法人向けに商品を卸す作業もある。その合間に事務作業をこなしていると、あっという間に夕方。

 サイトの更新作業などを終えて帰宅するのはいつも、午後9時くらいになっていた。