飛ぶ鳥を落とす勢いで成長してきたワタミの高齢者向け宅配食事業「ワタミの宅食」が伸び悩んでいる。高齢化の進展で有望なはずの市場に何が起こっているのか。
「新規参入のライバルが多数入り乱れる市場になった」──。2013年4~9月期決算発表の席上、ワタミの桑原豊社長は苦々しい表情を浮かべた。
宅配食事業は12年3月期、13年3月期と急成長を続け14年3月期も当初は41万食(前期比46%増)、売上高544億円(同40%増)と高い伸びを計画していた。
ところが足元の販売実績は前期の28万1000食からほとんど横ばいの28万6000食と伸び悩んでいる。これを受け、通期計画を35万食、売上高を456億円に大幅下方修正せざるを得なかった。
ワタミが同事業の本格展開を始めたのが10年。外食事業で培ったノウハウを活用し、高齢者向けに塩分やカロリーをコントロールした弁当を安価に提供しようと、全国に自社工場と販売店を整備。テレビCMなど広告宣伝費もかけ、一気に認知を広めていった。
高齢者向け宅配食はそれまで、自治体の福祉事業やNPO、地場の弁当屋などが手がける中小零細ビジネスだったが、大手の資本を持ち込み、介護関連の助成金なしで、民間でも成立するビジネスモデルをつくり上げた。
「ワタミの登場で既存の中小事業者はどんどんお客を奪われた」(同業他社)。高齢者向け宅配食市場は10年ほど前からあったが、全国展開する事業者でも冷凍おかずをメインとしていた。
一方のワタミは味も見た目もいいチルドタイプ。工場では朝から調理に取りかかり、午後から夜にかけて容器に盛りつけ、夜中に全国の販売店へ配送する。翌日朝から各地で配達スタッフが自宅に届ける、総力戦で挑む。今では全国522の販売店を展開、高齢者向け宅配食事業では独り勝ち状態だ。
Photo by Toshiaki Usami