子どもには方法論を教えない

柳沢幸雄(やなぎさわ・ゆきお)
東京大学名誉教授。開成中学校・高等学校校長。シックハウス症候群、化学物質過敏症に関する研究の世界的第一人者として知られる。1947年、疎開先・千葉県市川市の母の実家で出生。1971年、東京大学工学部化学工学科を卒業後、日本ユニバック株式会社にシステムエンジニアとして勤務し、激務のかたわら、週15時間英語の勉強に打ち込む。1974年、水俣病患者を写したユージン・スミスの写真に衝撃を受け、化学工学を勉強すべく、東京大学大学院工学系研究科の修士課程・博士課程に進学。この頃、弟と一緒に学習塾の経営を始める。東京大学工学部化学科の助手を経て、1984年にハーバード大学公衆衛生大学院環境健康学科の研究員の職を得て、家族を連れ渡米。その後、ハーバード大学公衆衛生大学院環境健康学科の助教授、准教授、併任教授として空気汚染の健康影響に関する教育と研究に従事、学生による採点をもとに選出される「ベストティーチャー」に数回選ばれる。1999年、東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻教授に就任。2011年より現職。

柳沢 開成では、野球部がグラウンドを使えるのは、1週間のうち3時間くらい。だから練習時間は短いけれど、考える時間はとても長いんです。“畳の上の水練”じゃないけれど、各自でいろいろと思いをめぐらせているのでしょう。

髙橋 例えばバッティングのスイングひとつにしても、彼らはエネルギー保存の法則に当てはめて考えてみたりするんです。バットへのエネルギーを体重移動によって変換させる効率を上げるか、体重を増やして元のエネルギー量自体を増やすかという問題を考察する。ただし、それを考察したところで、実際にバットに球が当たらないと意味がないですよね。だから「最大の問題は、ボールが前から来ることです」なんて言い出す子もいるんです(笑)。とにかく、そうやって持ちうる知識を総動員して、何とか問題を解決しようとするんですね。

柳沢 そうそう、みんな理屈っぽい(笑)

髙橋 守備の時も、「来い!」ではなく「来た!」と思っちゃう。でも、「来た!」と思った時点ですでに球はこちらに向かっているわけですから、当然出遅れます。だから「『来た!』と思うことがいけないのでは?」とか、そういったことを延々と話し合うんですね。

柳沢 野球の話がいつのまにか、難解な認識論の問題になっちゃうわけだ(笑)

髙橋 運動神経がよくて体が自然と動く子たちなら「来る」と「来た」の違いなんて考えなくてもいいでしょう。でも、そうじゃないから自分の体の動きを分析し、どこに原因があるのかを自分なりに考える。それ自体はとても素晴らしいのだけど、その結果、試合前日になって「やはり足腰は大事だと気づきました」と、すごく基礎的な結論に至ったりするんですね(笑)。

柳沢 我々は方法論を教えないんですよ。それは自分で導き出すほうが、最終的には自分のものになる。経験ある人が教えた通りにやれば、もっと上達するかもしれないけれど、それは教育ではないというのが我々の考え方ですね。