『資本論』の中で「価値」という言葉は、「労力の大きさ」という意味で使われています。つまり、「その商品の価値が大きい=その商品をつくるのに多くの労力がかかっている」ということを言っているのです。「それをつくるのにどれだけ手間がかかったか」を計る尺度なのです。

「価値」の大きさは人がそれをつくるのにどれだけ苦労したか(どれだけそれに対して労働したか)によって決まる、つまり「価値が大きい商品」とは、「この商品は、○○人で○○時間かけ、すごく労力をかけてつくった」ということを言っているのです。

 ある商品の「価値」の大きさは、その商品につぎ込まれた「人間の労働の量」によって決まるんですね。だから1時間でつくったパンより、10時間かけてつくったパンの方が「価値が大きい」。プログラマーが3時間かけてつくったスマートフォンのアプリケーションよりも、10時間かけてつくった木彫りの置物の方が「価値が大きい」のです。

「置物なんていらない!」と思うかもしれませんが、それは関係がないんです。そのモノが有効かどうかは「使用価値」という言葉で計ります。尺度が別なのです。

 単純にかかった労力に比例して「価値」は大きくなります。それが、マルクスが言っている「価値」です。「価値」とは、ふだんぼくらが使う意味での「カチ」ではありません。それが具体的にどんなものかというよりも、それにどれだけの労働が費やされたかによって決まって、多くの労働が費やされるほど「価値」も大きいということになります。

 簡単に言うと、時間をかけてつくったものは「価値」が大きい、ということです。日常会話で使う「価値」は、マルクス経済学でいう「使用価値」の場合が多く、混乱しがちですね。

 繰り返しになりますが、ふだん、ぼくらが使う「カチ」という言葉の意味とは違います。この意味を取り違えてしまうと、『資本論』の内容がまったく理解できなくなりますので、ご注意ください。(第3回に続く)

※この記事は、書籍『超入門 資本論』の原稿を一部加筆・修正して掲載しています。


著者プロフィール

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木暮太一(こぐれ・たいち)
経済入門書作家、経済ジャーナリスト。ベストセラー『カイジ「命より重い!」お金の話』『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』『新版 今までで一番やさしい経済の教科書』など著書多数。慶應義塾大学経済学部を卒業後、富士フイルム、サイバーエージェント、リクルートを経て独立。学生時代から難しいことを簡単に説明することに定評があり、大学時代に自主制作した経済学の解説本「T . K論」が学内で爆発的にヒット。現在も経済学部の必読書としてロングセラーに。相手の目線に立った話し方・伝え方が、「実務経験者ならでは」と各方面から高評を博し、現在では、企業・大学・団体向けに多くの講演活動を行っている。


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