タイで軍事クーデターが決行された。政治の混乱を何度も経験してきた日系自動車メーカーの反応は一見、冷静だ。だが、エコカー政策の着地点をにらみ商機をうかがっている。
タイの政治的混乱が長期化する様相を帯びてきた。それでもなお、タイに一大生産拠点を置く日系自動車メーカーの首脳らは、冷静な姿勢を崩していない。
池史彦・日本自動車工業会会長(ホンダ会長)は、「私自身、タイでの駐在経験があり、(実感としても)タイの優位性は変わらない」と言うし、小平信因・トヨタ自動車副社長も「歴史的にも、サプライヤーの集積地という意味でも、タイが重要拠点であることに変わりはない」と口をそろえる。
タイ政府もまた、「政情不安が度重なり、海外からの投資が引くことを危惧している」(川端隆史・SMBC日興証券エコノミスト)ことから、プラユット司令官ら軍幹部からも政治的空白がタイ経済停滞の長期化をもたらすことのないように配慮した発言が目立つ。
だが、実情は違う。すでに、政治の混乱が直接的な影響を及ぼし始めているのだ。4月にタイ投資委員会(BOI)が発表したばかりのエコカー政策の行方をめぐって、日系自動車メーカーの間では臆測が飛び交っている。
今回発表されたのは、低燃費・低公害の小型車を生産する自動車メーカーに優遇税制が適用される「第2期エコカープログラム」(第2エコカー政策)というものだ。2007年に導入された第1期エコカープログラム(第1エコカー政策)に続く第2弾となる。
第2エコカー政策には、第1期から参画していた日系5社(トヨタ、ホンダ、日産自動車、三菱自動車、スズキ)に、マツダ、米ゼネラル・モーターズ(GM)、米フォード・モーター、独フォルクスワーゲン(VW)、上海汽車PC(中国・上海汽車集団とタイ財閥チャロン・ポカパンとの合弁会社)を加えた10社が参加申請を表明している。平時ならば、BOIが各社の申請内容を粛々と審査して承認を出すはずだった。