本シリーズの冒頭で、サラリーマンの給与もプロスポーツ選手と同様に雇用主からの期待に対する報酬であると述べた。そして給与が決まるしくみと、ビジネスのグローバル化や少子高齢化という時代背景の中で、報酬制度も変わらなければいけない時期に来ていることをご紹介した。
最終回では、リーマンショック後、グローバル企業がどんな報酬施策に取り組んでいるかについてご紹介し、それらを読者の皆さんがどんな風にとらえるとよいかについて提案を差し上げたい。
雇用者としての企業ブランドには
国内外でギャップがある
2009年以降の経済危機で、グローバル企業の報酬マネジメントの優先順位が変わった。まず国内外を問わず、多くの企業で報酬や人材育成などの人事諸施策について全体の見直しが始まった。経済危機に対応して人件費コストを削減しようにも、自社のどこの拠点にどんな人材がいて、どのくらいの人件費(報酬や採用・教育等にかるコスト)がかかっているか、情報が十分でなく機動的に対応できなかったからだ。
その教訓を生かして、社員の働きにどのように報いていくかという方針や制度を、会社の事業成長戦略と密接に連携させようとしている。世界のどこでどんな人材がどれだけ必要かを眺め、一貫性のある方針をもって、世界中の人的資源を効果的にマネジメントしようとしているのだ。こういった状況下、本連載の第3回で紹介したような日本国内と海外の現地法人の報酬制度や人事諸制度は別という考え方は、成り立たなくなっている。
興味深いことに、ヘイグループが毎年米国フォーチュン誌と共同で行っている「世界で最も賞賛される企業調査」(World's Most Admired Companies)によると、上位にランキングされるようなグローバル企業では、基本報酬の水準を競合他社に比べて5%ほど低く設定するという企業もある。業界トップ企業ほど給与が高いと考えるのが普通だから、疑問に思うかもしれない。
しかしこれは、需要と供給のバランスが働いていると考えると不思議なことではない。ぜひこの会社で働きたいという候補者(供給側)がたくさん集まれば、買い手(需要側=企業)市場になるのだから、給与は少し低くしても優秀な人材が集まる。給与以外にも働く場としての魅力があるからだ。報酬の決定には、その企業が働く場として魅力的であるかどうかという要素も重要なのだ。
表1をご覧いただきたい。
これは、ヘイグループが分析した会社が雇用者としてのブランド(Employer Brand)を高めるための要素である。社会的なイメージが良く、入社してからもやりがいをもって継続的に仕事ができる会社であるために必要な要素だ。日本国内ではEmployer Brandが高くても、海外では良い人材の獲得に苦慮する企業は多い。