日本でも最近、そんなヤギに対する関心が少しずつ高まっている。ヤギについて知りたい、という人も増え、安部教授もメンバーの1人である「全国山羊ネットワーク」にもたくさんのヤギ好きたちが集まって来るようになった。これは研究者や大学関係者、ヤギの飼育者のみならず、ヤギを愛するすべての人に開かれた組織である。会報「ヤギの友」を発行しているほか、年に一度、各地で「山羊サミット」を開催している。今年は10月に山形県鶴岡市で開かれる予定だ。

社会的順位には厳しい
知られざるヤギの世界

――過疎化が進む地方では猿などの野生動物が里山から下りてきてしまい、作物を荒らす被害も増えているようです。ヤギがいると、そうした野生動物も下りてこないようだと聞きましたが?

「私自身は調べたことはありませんが、ある程度、そういう緩衝帯としての効果があるようだ、とは言われています。神奈川県西部でも、ヤギがいるとあまり猿が来ないという話は聞きます。どうしてそうなるかというと、1つにはヤギが草を食べてくれるために、見通しが良くなるから。草が生えていると前が見えませんから、野生動物が安心して山から下りてきてしまう。そこで人間と遭遇してお互いにビックリする、ということにもなる。だから、人間と野生動物が適正な距離を保つためにも見通しが良いように里山を管理し続けることは大事なのです。ただ……」

――ただ?

「一方で、里山のふもとで飼われていたヤギが野生のイノシシに腹を突かれて命を落とした、ということも稀には起こりますね」

“働くヤギ”が都市部でも増加中!<br />除草だけじゃないヤギが切り開く「未開拓ビジネス」残り物の干し草を奪い合う。これも弱肉強食を生延びる知恵か

――それも自然界の厳しさですね。

「そこはやはり、犬猫を飼うのとは違います。ヤギもね、ほんとかわいいんですよ。飼っていると、声と服装でエサをくれる相手は覚えますから。慣れると、向こうからすり寄ってもきます。牛もそうですが、子ヤギの頃から触ってあげて慣れさせたら、人間を怖がったりはしません。ただ、犬のようにご主人様をじっと見ているようなことはしませんね。付かず離れずと言いますか……。それと、ヤギはあまり身勝手じゃないんです。ものすごく環境適応力が高いですから、人間もほかの動物と同じような感じで環境の一部と考えて適応しているだけ、ということも考えられます。

 じつは、牛もヤギも集団の中で明確な序列を作ります。ヤギの場合、その争いは牛より激しい。序列の低いヤギが高いヤギより先にエサを食べようとすると、強い方のヤギがとことんまで追いかけ回します。ただし、傷つけるまではやりません。ルールを守らなかった“お仕置き”のような感じですね」

 集団の中で序列をつけるのは草食動物には欠かせないことだそう。野生で狙われたら、彼らは基本、逃げるしかない。そのために群れをなし、エサを食べたり休憩している間も常に周囲を監視している個体がいる。

 オオカミなどの天敵が近づいてきたら、監視役の個体が素早くみなに伝えて全員で逃げる。その際、一番弱いヤギが逃げ後れ、文字通り、「スケープゴート」になることで群れの被害を最小限に食い止めるのだ。

 なんとなく、人間社会にも似ているような気がするのは気のせいだろうか?