2007年10月に民営化し、200兆円あまりの資金量を誇るゆうちょ銀行が、新たな資金運用策に乗り出している。
複数の金融関係者によれば、ゆうちょ銀行は今年度、大手銀行を中心とする金融機関から、数千億円規模の貸出債権を買っているという。
莫大な資金量のゆうちょ銀行からしてみれば、たいした額ではない。だが、第二地方銀行の中堅クラスの総資産に匹敵する規模だけに、決して小さくはない。
ゆうちょ銀行の狙いは、ずばり運用の多角化である。
これまでゆうちょ銀行は、運用資金の約7割を国債で運用。株式市場が混乱している今は、そうした運用が奏功して利益を生んでいるが、金利上昇局面では巨額の損失を被るリスクもあり、運用の分散が至上課題だったのだ。
といっても、ゆうちょ銀行自らが企業などに融資することはできない。民営化したとはいえ、いまだ政府が100%株式を保有する日本郵政の子会社。「民業を圧迫する恐れがある」として民間からの反発も強く、新規事業に乗り出す際には金融庁などの認可が必要だからだ。
これまで、シンジケートローン(協調融資)のほか、株式やデリバティブ商品などによる運用は認められており、新日本製鐵向けのシンジケートローンに資金を拠出するなどの実績もある。
ところが一般的な融資は、民間の金融機関の根幹をなす業務であるだけに、いまだ認められておらず、仕方なく貸出債権を購入しているというわけだ。
ただ見方を変えれば、ゆうちょ銀行にはまだ審査や回収に関するノウハウが蓄積されていないため、その機能を銀行に肩代わりしてもらっているととらえることもできる。
売却する金融機関側にもメリットがある。自己資本比率を高める効果があるリスクアセットの削減につながるし、通常の融資よりも高い利回りを得ることもできるからだ。
両者の思惑が一致しているだけに、今はじわりでも、今後、急速に拡大していく可能性は大きい。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 田島靖久)