辰はワニ
「タツ」といえば龍、竜のことになる。竜は水を支配し、魔力と結びつく。強大ではあるが害悪ではないのが、東アジアから南アジアにかけての竜で、ヨーロッパ世界の竜は翼があり、神に敵対する罪悪とみなされる。
火の無いところに煙は立たず、どんな実在動物によって竜のイメージは形成されたのか。辰と巳は互換性があり、蛇も水神のことが多いから、蛇が竜の正体の一部を成すことは間違いない。その食にまつわる部分は「巳を食べる」項に譲る。
水に棲む爬虫類たるワニが竜の正体を成すのも想像に難くない。というより、竜はかなりワニである、竜の顎の下にある逆鱗(げきりん)に触れると必ず殺されるというが、ワニは顎の下に下顎腺という臭腺があり、興奮すると反転して外に突出し、よくわかるようになる。こうした特徴も竜の正体がワニであることを示す。ワニは恐竜や飛行性爬虫類、鳥と系統的に同じグループであり、トカゲとは別系統であることが最近の進化学で判明しているが、西欧の竜も、ワニの一族であることがますます明らかである。
十二支暦も併用していたトルコ民族は、辰年も当然使用していた。カシュガルル=マフムードによる「トルコ語集成」には、辰にワニの訳語を与えている。
辰がワニだとすれば、それを食べるのは当然の話で、世界各地でワニは食用とする。入手できる地ではゲテモノでも何でもないので、私もあちこちで食した。
BBQ用イリエワニ |
喩えていえば鶏に近いが、伊勢エビの食味も少しある。北アメリカ東南部のアメリカアリゲーターや、南米のアマゾンを中心とする河川域のカイマンといったアリゲーター科のワニもよく食べられ、そのことによって個体数が減少した面もある。旧世界のほうにより多く分布するクロコダイル科のワニは、皮革用に殺されたのが激減の大きな要因ではあろうが、やはりよく食用にされている。オーストラリアのオージー料理の一角を成すのはクロコダイル、特にイリエワニの肉料理である。
ともあれ、どんなワニでも食べられる。ワニが人を食うより、人がワニを食うほうが、圧倒的に多い。
絶滅した竜を食べる
竜として普通に想起されるのは恐竜だが、その肉を食べることはできない。人類と同時代的なことなく絶滅したからである。
絶滅していても時代を共有しているのなら食用となる。マンモスがその例で、氷河時代に人類は食用としてマンモスを狩り、絶滅に追いこんだ。現代にもマンモス食の例はある。