接客業にも関わらず、加齢臭が気になり
仕事場でミスを繰り返しはじめたMさん(40歳)
Mさんが生きた外資系ホテルの世界では、ステップアップのための転職は当たり前だった。しかし一昨年のリーマンショック以降、外資系ホテルの客室稼働率と客単価の落ち込みはすさまじく、マネージャーで年収も高かったMさんは真っ先にリストラされてしまった。すぐに次の転職先が決まると思っていたMさんだったが、結局、最終出社日まで転職先は決まらなかった。屈辱だった。
数ヵ月間失業保険をもらった後、人材紹介会社の紹介で老舗洋菓子店に転職することができた。姿勢もよく、スマート。学生時代からずっともてていた自分が、40歳まで独身で、しかも転職に苦労するとは思わなかった。
30歳でヨーロッパのホテルに単身渡り、3年間修行した。そこで学んだ経験を日本のホテル業界に持ち込み、実績を残した。そんな自分がまさか20年近く、生きたホテルの世界から足を洗うと思わなかった。
現在、勤めている老舗洋菓子店では、外食部門の責任者として採用された。責任者といっても自分もお店に出ることが多い。ホテル業界とは全く違う世界に戸惑ったが、もととも順応性が高く、見た目もよいMさんは職場ですぐにパートの女性たちの人気者になった。
きっかけは新卒の女の子の一言
緊張して汗が止まらない
転職して3ヵ月。試雇期間ももうすぐ終わる閉店間際に、新入社員の女の子に言われた。
「Mさんて、なんでそんなに背筋伸ばしているのですか?なんか不自然」
ショックだった。言われた途端に、腋や背中に汗が流れた。心臓がドキドキした。ホテルマンとしては当たり前だった、背筋を伸ばして、あごをひいて、指先までも気を遣う接客はふさわしくないのか。
先代から贔屓にしてもらっている地元の常連が多いこの職場では、「自分の接客が堅苦しくないか?」ととても気にしていた。そのためか、新入社員の女の子に指摘された途端、Mさんの緊張が一気に高まった。きちんとプレスされた真っ白なハンカチで汗をぬぐっても、ぬぐっても、額や腋のした、足の裏から汗が出てしまう。その日は、帰りの電車の中でも汗が止まらない気がした。終電間際の混雑した電車で、Mさんは自分の臭いが気になりはじめていた。