商売とは、
お客様に育てていただくもの。

 これが、勉強になりました。
 というのは、皆さんお怒りになるどころか、応援してくださったのです。
「わざわざ悪いな」
「もう、ええよ」
「がんばりや」
「次のときは頼むで」……
 その一言一言がありがたくて、その店長は何度も涙を流したそうです。
 しかも、実際にそのお客様たちはご来店くださいました。そして、そこから売上も上がっていったのです。

 大きな失敗でしたが、このとき彼はものすごく大切なことを学びました。
 失敗は取り返しがつきません。
 しかし、誠心誠意、お客様に向き合えば、その気持ちはお客様に伝わり、応援してくださる。その経験が、お客様に対する根源的な信頼感を育てるとともに、ご来店いただけることがいかにありがたいことなのか、その「感謝の気持ち」を植え付けてくれるのです。
 これは、一生の財産です。

 私自身、何度もそんな経験をしてきました。
 至らないことがあったり、間違ったことをして、お客様に何度もお叱りを受けてきました。
 しかし、「お客様に喜んでいただきたい」という本質に向けて、誠心誠意取り組めば、ほとんどのお客様は応援してくださるのです。

 きついお叱りを受けたお客様が、数日後、またいらっしゃって、「ちゃんとやってるか、見に来ったわ」と話しかけてくださる。そして、ちゃんと改善していれば、「応援してるで。がんばれよ」と褒めてくださる。
 そうしたお客様に、私は育てていただいたのです。商売とは、絶対にそういうものなのです。

 もちろん、お客様に甘えてはいけません。
 常に、全力でがんばるのは当然のことです。だけど、お客様に喜んでいただくのは、そんなに簡単なことではありません。未熟なうちは、「お客様のために」と思ってやったことが、結果的に「お客様のために」ならないようなことも多々あります。だけど、一生懸命にやっていれば、お客様は応援をしてくださいます。
 その度に反省することで、少しずつ「お客様への感謝の気持ち」が育ち、ほんとうの意味での「おもてなしの心」をもてるようになるのです。

 大事なのは、「お客様に喜んでもらいたい」という目標に向けて、とにかく前を向いて働き続けることです。ときには、道に迷ってしまったり、階段を下りてしまうようなこともありますが、どんなときも正しい方向に顔を向けて頑張り続ければ、必ず成長することができると思います。

 だから、私は従業員たちにいつもこう言っています。
コケることを恐れるな。
 そして、コケるときには前のめりにコケろ、と。

 失敗を恐れているよりも、愚直に「お客様のために」という気持ちで働いて失敗したほうが、成長すると確信しているからです。