中国の接客サービスはひどい――。そんなイメージが私たち日本人に根付いて久しいが、今、徐々に中国の接客は変わりはじめている。その変化を支えるのが、10年以上にわたって中国人向けのサービス・販売研修を1000回以上実施し、累計受講者数が2万人を超えるというカリスマ講師、レジャーサービス研究所(上海勒訊企業管理咨詢有限公司)所長の斉藤茂一氏だ。かつてはオリエンタルランドに勤務し、東京ディズニーランドのおもてなしを知る齋藤氏に、中国人におもてなしサービスを教えるコツなどについて聞いた。

「丁寧にやれ!」というだけでは
中国人スタッフには通じない

――斉藤さんが中国人に「おもてなしサービス」を教えることになったキッカケを教えてください。

レジャーサービス研究所、斉藤茂一氏

 北京市政府からの依頼でソニーが2000年に設立した科学体験テーマパーク「ソニー・エクスプローラサイエンス」の立ち上げプロジェクトに関わったのがきっかけです。私はそのとき、テーマパークに勤務する中国人スタッフの教育を担当しました。教育を始めた当初は、「もっと丁寧にやりなさい!」と中国人スタッフに何回言っても、全く改善されなかったため、「なんでこんな簡単なこともできないんだ!」とブチ切れる毎日を送っていました(笑)。

 ですが、そんな状況が、あることをキッカケに変わりました。ランチを一緒に食べていた通訳の人からの「斉藤さんが“丁寧にやれ”と何度言っても中国人には分かりませんよ」という一言でハッと気づいたのです。日本人でも「丁寧」や「おもてなし」の定義は十人十色です。それにもかかわらず、文化や常識の異なる中国人スタッフに対して、私の考える日本式の教え方をしていても通じないのは当然でした。それに気づいてからスタッフの教育は、見違えるようにうまくいきました。

 例えば、「ドアを丁寧に閉めましょう」と言う代わりに「ドアを閉めるときは、ドアノブを最後まで持ったまま、音が出ないように閉めましょう」と言ったり、「お客様の立場にたってコーヒーを出しましょう」と言う代わりに、「お客様にコーヒー出すときには、音が立たないようにコーヒーカップを置きましょう」と言うなどするようにしました。具体的な指示に変えると、中国人スタッフも1発でできるようになったのです。

 思い返せば、私がディズニーランドで働き始めたとき(1982年)のインストラクターも外国人でしたが、ディズニーのおもてなしサービスは、日本人キャストに問題なく伝わりました。もともとアメリカの移民、ブルーワーカー達にサービスを教え込むために作られたディズニーの教育は、日本や中国に限らずグローバルで通じるように設計されたものだったからです。

 例えば、日本の一般的なレストランの業務マニュアルでは「お客様が退席したら、テーブルをキレイに片付ける」としか書いていないと思いますが、ディズニーランドでは「3回洗剤をテーブルに吹き付けて、テーブルを布巾で3周拭くことがテーブルをキレイにすることだ」と教えられます。

 このソニーの仕事を通じて、ディズニーのノウハウは中国でも通じると自信がつきました。