存在意義のある会社こそが、
強い会社。

著者プロフィール
豊﨑賢一 とよさき・けんいち
株式会社あきんどスシロー代表取締役社長。1965年徳島県生まれ。高校卒業後、大阪阿倍野の寿司屋「鯛すし」に就職。その直後の1984年、創業者・清水義雄氏が回転寿司に参入。お客様に「安いし、こんなにおいしい!」と喜んでもらうために、創業当初から「原価率50%」を貫くほか、加工、調理、回転レーンの管理まで、ひたすら小さな工夫を積み重ね、圧倒的な「商品力」をつくり上げた。 2009年に社長就任。約500億円(07年度)だった売上を約1200億円(13年度)に伸ばし、業界トップに躍り出る。また、09年度、11年度には顧客満足度指数調査(経済産業省)で、飲食部門第1位を獲得。現在、2020年度までに売上2000億円を達成すべく陣頭指揮をとっている。

 おかげさまで、徐々にお客様からお褒めのメッセージをいただく機会が増えているのを実感します。ひとつご紹介させてください。

 そのお客様のご家族は、皆さん耳が不自由でした。月に一回外食することを、家族の楽しみとされていて、スシローにもご来店いただいたことがありました。

 しかし、スシローでは、タッチパネルでご注文いただいた寿司が到着することを、音声でお知らせするシステムですから、たいへんご不便をおかけしていました。そのため、2年ほどスシローから遠ざかっていたそうです。

 ある日、寿司が食べたくなって、久しぶりにご来店いただきました。
 ところが、途中で、注文したのに来てない商品があることに気づきました。「どう伝えたらいいのだろう?」と戸惑っていると、ひとりの従業員が駆け寄ってきたそうです。そして、「少ししかできないんですが」とはにかみながら、手話で「どうされましたか?」と話しかけたというのです。

 ありがたいことに、そのお客様はお会計を済ませたあと、わざわざその従業員にお礼を伝えに行ってくださいました。そこで、その従業員が2年前に来店されたときのことを覚えていたことがわかりました。そのとき、十分な対応ができなかったために、手話を勉強したというのです。

 私は、こういう従業員がいてくれて、ほんとうにありがたいと思っています。そして、同じスシローの一員として誇らしく思います。

 実際には、お褒めのメッセージよりも、お叱りのメッセージのほうが多いのが現実です。そのお叱りの声を真摯に受け止め、改善を続けなければなりません。しかし、同時に、こうした「おもてなしの心」をもつ従業員を、心から褒め称えたいと考えています。
褒めることこそが、そんな従業員を増やす唯一の方法だと思うからです。

「おもてなしの心」をもって、お客様に接する。
 そうすれば、お客様は、必ず「ありがとう」という言葉を伝えてくださいます。
 その言葉が従業員を幸せにしてくれます。
 この好循環を生み出すことこそが、スシローという存在に意味を与えてくれるのだと思います。そして、このような、しっかりとした存在意義のある会社こそが、強い会社なのだと思います

 私は、まだまだ未熟な経営者ですが、そのような存在意義のある会社をつくることを、いちばんの目標に、まっすぐバカ正直に頑張っていきたいと思っています。
 これからも、どうぞよろしくお願い申し上げます。


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