オリンピック招致の最終プレゼンを契機に、各所で注視されている「おもてなし」。日本人の細やかな心づかいを製品、サービスに反映させて収益向上につなげようと考える企業は多いと思うが、そこに落とし穴はないか?グロービス経営大学院の山口英彦が近著『サービスを制するものはビジネスを制する』のコンセプト等も反映させながら問いかける連載、第4回。
※この記事は、GLOBIS.JP掲載「おもてなしの人材育成 ~ルールを覚え、ルールを破る~(おもてなしで飯が食えるか?)」の転載です。

 深刻な人手不足がサービスの現場を悩ませています。牛丼のすき家や居酒屋のワタミの店舗では、営業時間短縮や閉店が話題になりました。日本郵政やスターバックス、ファーストリテイリングといった企業では、パートや契約社員を正社員に転換し、人材不足に何とか先手を打とうとしています。人材確保は、おもてなしビジネスを拡げていこうとする企業にとっても避けて通れない問題です。

「人材が生命線」だが、
「人材に頼る」経営をしてはいけない

 過去3回の本コラムでは

●おもてなしの定義。おもてなしは変動性の高いサービスの中でも、「(マスではなく)特別な一人に向けて」、「顧客ニーズに先回りして、感動の提供を目指す」点でユニークである

●つまり、おもてなしはサービスの中でも限定的な存在。ゆえにサービス向上のためには、多くのビジネスの場合、おもてなし強化の前にやるべきことが山ほどある

●おもてなしを強化するにしても、まずはおもてなし以外の部分で可能な限り標準化や効率化に努めることが、現場がおもてなしに注力する余裕を生む

 といった話をしてきました。

 では実際に企業が自社サービスのおもてなし部分をテコ入れしようとする時、どんな壁に直面するのか?その克服のための方策はあるのか?――こうした、おもてなし実践の勘所を話していこうと思います。まず今回は、おもてなし提供の核とも言える人材(従業員)の育成について、最近私が感じていることを書いてみます。

 おもてなしに限らず、まずはサービス全般の人材育成について広く見ておきましょう。

 サービス企業の経営者がよく口にするフレーズの1つに「我が社において最も重要な資産は人材である」というのがあります。確かにサービスの特徴の1つである同時性(サービスの提供と消費は、同じ場所・同じタイミングで行われるという特性)を考えると、サービスの質を最終的に担保できるのは、顧客接点でサービス提供を担う従業員以外にはいません。またサービス事業を拡げていこうとする時に特に確保が難しいと感じる経営資源が、新しい拠点や店舗でのサービス提供を担える従業員でしょう。人材がサービスビジネスの生命線であることに疑いの余地はありません。

 しかし注意しておきたいのは、「人材が生命線」だからと言って、特定の「人材に依存する」経営で良いわけではありません。よく「優秀な人材が足りないから、事業が成長しない」とおっしゃる経営者がいますが、本当の障害は「優秀な人材が足りない」ことではなく、その企業に「人材を育てて、サービス品質を担保していく仕組みがない」ことなのです。