日本郵政人事のメッセージ
権力は、それがどう行使されるかによって、世間の評判が変わる。世間が満足する間は、権力の存在はさして注目を集めないが、その影響に誰もが満足する訳ではなくなると、俄然、その権力がどんな構造に支えられているのかが問題になる。われわれの経験からすると、多くの国民が権力に不満を感じるようになっても、権力のありようによっては、なかなかこれを取り除くことが出来ない。かつて、自民党政権の背後にあった権力の構造も、いざ取り除こうとすると、なかなかに手間の掛かる代物だった。
民主党政権が発足して1月半が経過したが、同党幹事長である小沢一郎氏の周辺の権力構造もまた、これを取り除いたり修正したりすることが困難なものになるのではないか。こう思うに至った、象徴的な出来事は、日本郵政の首脳人事だった。
西川善文社長の退任に大きな違和感はないが、元大蔵次官の斎藤次郎氏の社長就任には大きなインパクトがあった。
この人事の当事者である亀井郵政改革担当相によると、適材適所の人事を行う上で元官僚だからといって排除の条件にはならないとのことだが、この人事は、「天下り根絶」を訴え、日銀総裁人事などで「元官僚」を主な理由に複数の候補者に反対してきた民主党の主張とは明らかに矛盾する。報道によると、鳩山首相は亀井大臣からこの人事案を聞いて驚いたらしいが、これを承認した。また、かつての野党時代なら批判が噴出したのではないかと思われるが、民主党内から批判の声は殆ど出ていない。連立相手である国民新党と亀井大臣への配慮もあろうが、これは異様だ。
推測するに、かつて細川政権時に共に国民福祉税構想を推進しようとした仲である斎藤次郎氏に対する小沢一郎氏の信認が厚いことを、どの関係者も意識したからではないか。だとすれば、その先には小沢氏の絶大な権力が見える。
この人事が承認される運びになった場合、その人事のメッセージ効果は極めて大きい。端的に言って、民主党、最終的には小沢氏に協力する官僚は、将来、何らかのポストに登用される可能性があるということだ。この可能性を見せられて、民主党になびく官僚は少なくないだろう。