工場の所有権がパナソニックに移った後、敷地内にあった半導体事業は米オン・セミコンダクターに、冷蔵庫と洗濯機事業は中国のハイアールに売却された。会社解体の痕跡がこれほどはっきりと見える場所も珍しい。

 会社解体を象徴するのが2012年末に張り巡らされた金網のフェンスである。高さ2メートルほどのフェンスはパナソニックの敷地に「それ以外の会社」の社員が入れないように敷設されている。フェンスが設置されたことを知らなかった出入りの業者の車が夜中に激突する事故があり、その後、フェンスの上に赤いランプが灯るようになった。フェンスはいよいよ物々しさを増した。

 この敷地内で働いている人のほとんどは2009年まで、三洋電機の社員だった。パナソニックがフェンスを張り巡らせた目的は、セキュリティーの確保や知財流出を防ぐことだと思われるが、かつて同じ釜の飯を食ってきた人々を分断するフェンスはいかにも不気味だ。元三洋の社員たちは全長数キロメールに及ぶフェンスを忌み嫌い「パナの壁」と呼んでいる。

 敷地内にある共用の食堂も、食事を受け取る場所は同じだが、食べるテーブルは別々に分かれている。構内の通路で昔なじみの仲間とすれ違うと挨拶はするが、立ち話でも仕事の話はご法度だ。すれ違いざま「よお、元気か」と声を掛け合う度に、社員は解体された企業の悲しさを痛感する。

今は楽しくてしかたない

 三洋電機の冷蔵庫、洗濯機事業を買収したハイアールは、ハイアール・アジア・インターナショナル(HAI)というアジア統括会社を作り、その下に国内の開発、販売部門と海外の工場、販売拠点を配置した。旧東京製作所にあるのは冷蔵庫R&Dセンターである。約150人の元三洋電機社員がダークグリーンの作業服を着て働いている。

「彼らは常に中国や東南アジアを飛び回り、現地で技術指導や共同開発を進めています」。冷蔵庫R&Dセンター長でHAIの副社長を兼ねる土屋秀昭は今はそう説明する。三洋電機時代には考えられなかったようなグローバルな働き方をしている。

 洗濯機の開発を担当するある技術者は「ハイアールになってから初めて、世界中の洗剤メーカーと話をしました。国が違うとこれほど洗濯の仕方が違うのか、と驚きました」と話す。世界市場を見据えた製品開発が「楽しくてしかたない」と笑みをこぼす。

 洗濯機と洗剤の相性は大切だから、洗濯機の技術者が洗剤メーカーの人間と情報交換するのは珍しいことではない。だが三洋電機時代の相談相手は、日本の洗剤メーカーに限られていた。「日本で通用すれば世界で通用するはず」という思い込みがあったからだ。