前回のコラムでは、旧三洋電機のタイ工場がずっと赤字状態から抜け出せなかったが、ハイアールに買収されて2年間経ったころ、呉勇という30歳の男性がそこに送り込まれ、それからわずか3年で、初めて黒字を達成したことをレポートした。
コラムがネットにアップされると、いろいろなところから反響があった。とくに呉さんの年齢に感嘆の声を挙げた読者が多い。しかし、私はその年齢のことに対しては、逆にそんなにはびっくりしていない。今や世界を舞台にしてビジネス活動を展開させるレノボを率いる楊元慶さんも32歳で副社長、36歳で社長になったのだ。若いだけに楊さんも呉さんも懸命に働いて実績を作り、まわりの人間たちを束ねることができたと言えよう。
ハイエンド路線へ転換を決断
ハイアールに買収された時、タイで販売されている三洋ブランドの製品はわずか4万台しかなかった。冷蔵庫の生産台数こそ62万台となっていたが、ほとんどはOEM生産で生産台数を稼ぎ、工場をなんとか維持していたのだ。
ただ、2007年にタイ工場をハイアールが引き継いだからといって、すぐに大きく局面を打開できたわけではない。2ドア冷蔵庫といくつかの1ドア冷蔵庫がなんとか販売されているが、タイ全国でハイアール製品を販売する店舗は30にも満たなかった。トップの人事異動も頻繁に行われていたので、呉さんの赴任を冷ややかに見るタイ社員も多かった。長く勤まらないだろうと見ていたからだ。「成功するまで絶対ここを離れない」と呉さんは社員たちの不安を払しょくするのに懸命になった。
同時に現状をどう打開するのか、社員たちと一緒に考えた。人口が約6600万人のタイには、たくさんの海外資本系の家電メーカーが進出し、いろいろなブランドもある。海外ブランドだけでも10以上あり、うち9つがタイに現地工場を持っている。冷蔵庫市場はもっと厳しい。市場需要が年間150万台くらいであるのに、工場の製造能力は700万台にも達しており、過当競争にさらされている。