しかし衣類の汚れは食べ物の種類によっても違う。カレーと豆板醤と醤油では汚れの質が違う。高温多湿の日本では、汚れ物をその日のうちに洗うが、汗をかきにくい寒冷地の洗濯は週に一度。一週間で染み付いた汚れはなかなかに厄介だ。日本で売れる洗濯機がそのまま世界で売れるほど甘くはない。

数倍の速さで時間が流れている

 2014年2月、ハイアール・アジア・インターナショナルR&D本部のディレクター、松本雅和は中国・青島のハイアール本社にいた。松本は三洋電機の洗濯機事業部門で30年以上、開発を担当してきた。ハイアールの一員になったその日から、中国語はおろか、英語もまともにしゃべれない松本のパソコンに毎日、何十通もの英文メールが入るようになった。まさか50歳を過ぎて、30代、40代の中国人を前にプレゼンテーションをすることになるとは思いもしなかった。

 このとき松本が日本から携えていったアイデアの一つは「ツインパルセーター」という二つの撹拌羽根を持つ縦型の洗濯機だった。日本の洗濯機の主流はドラム式だが、乾燥機を兼ねるドラム式は25万円~35万円もする。松本たちは世界で売れる洗濯機を作るため、あえて縦型に逆戻りし、しかも二つの撹拌羽根で衣類のからみを抑制し、ドラム式並みの節水性能を実現した。

「面白い。日本でヒットしたら、世界展開のためのモデル開発もお願いしましょう」

 青島でのプレゼンで、松本はハイアールの幹部から、こんな言質を取り付け、心の中で「よしっ」と快哉を叫んだ。

 ハイアールグループでは年に2回、5月と9月に5ヵ国のR&Dセンターが競うグローバル・コンペがある。青島の本社が「こんな製品を作れないか」とオファーを出すと、5ヵ国のセンターが「うちにやらせてくれ」と手を上げる。白物家電の開発に関しては、現時点で日本の実力が飛びぬけているから、松本たちは本社のオファーを注意深く吟味し、利益が出せそうなものに絞って手を上げる。

 松本が驚いたのは開発が決まってからのスピード感だ。日本なら2、3年は企画を温めるところだが、ハイアールでは企画が決まると本社から「すぐ作れ」と号令がかかり、半年後には製品が店頭に並ぶ。品質基準などで譲れないところは、いくら本社がせっついても「無理なものは無理」と突っぱねるが、それでも数倍の速さで時間が流れている感覚だ。