踊る「Made in Japan」の文字

  余分な機能をそぎ落としたことで、ツインパルセーターの希望小売価格は一番大きい10キログラム用で12万円程度に抑えられた。しかも驚くべきことに、4機種のうち3機種は滋賀県にある旧三洋電機の国内工場で生産する。工夫に工夫を重ねることで「白物家電は日本で作ったのでは採算が合わない」という常識を覆した。その快挙を誇示するかのように、フロントパネルには「Made in Japan」の文字が踊る。三洋電機からパナソニック、そしてハイアールと流浪した技術者たちが、世界で戦うポテンシャルを秘めた国産洗濯機を復活させたのである。

 ハイアールの中で生き残るために絶対にやってはいけないこと。それは「できない、無理だと、あきらめることだ」と松本は言う。Made in Japanをあきらめ、イノベーションをあきらめた結果としての日本の電機産業の衰退。その果てに三洋電機という会社は消えてしまった。「日本でのもの作りをあきらめたくない」。その思いが中国企業で働く元三洋電機の社員たちを突き動かしている。

 2014年春にハイアール・アジア・インターナショナルの社長に就任した伊藤嘉明はバンコク出身で、日本コカ・コーラや中国レノボ、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントなどのグローバル企業を渡り歩いてきた。その伊藤が、アジア各国にある旧三洋電機の生産拠点を視察し「三洋電機の先輩たちは、本当に素晴らしいオペレーションを遺してくれた」と感嘆の声を漏らした。

 伊藤は6月、デザイン家電で売り出し中のamadana(アマダナ)と提携し、同社社長の熊本浩志をチーフ・クリエイティブ・オフィサーに招いた。アマダナにはソニーを辞めたデザイナーやエンジニアも数多く在籍している。電機大手は国内工場を閉鎖するばかりだが、そこから追われた「敗れざる人々」は、まだMade in Japanをあきらめていない。(文中敬称略)


大西康之著『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』(日経BP社)が発売中です。散り散りになった旧経営陣は今何を思い、10万人の社員たちは今どこで何をしているのか。たとえ今の職場がなくなっても、人生が終わるわけではありません。会社を失ったビジネスパーソンの明るくたくましい生き様が垣間見える「希望の物語」となっています。ぜひご参照ください。