「そのときは」
内藤は、すっと息を呑んだ。「帝国航空は破綻する。もちろん、我々の債権の大部分は、回収不能になるだろう。当行の業績、並びに財務への打撃は深刻だ」
内藤は、普段は冷静な仮面の下に隠している熱い本性を覗かせた。「頭取は、この難局を君に託された。諸々の事情はあるが、それをいったらキリがない。肝心なことはただひとつ。ここを確実に乗り切れるのは半沢、君しかいないということだ」
いままた、半沢は長い吐息を洩らした。
「お話はわかりました。ただ問題があります。いまウチのメンバーは手一杯で、この案件に対応できるだけの時間的余裕がある者はいません。もし、私が帝国航空を担当するのなら、同社を知悉した有能な部下が必要になります」
「帝国航空の担当作業チームごと、そのままウチで引き受ける。それでどうだ」
異例の対応だが、妥当だ。おそらく、内藤の知恵だろう。「担当次長を除き、全部で五人。既に辞令を出す準備は出来ている。優秀な連中だと聞いている」
「ちなみに、いままでの担当次長は」
「曾根崎次長。知ってるか」
百九十センチはありそうな巨体を、半沢は思い出した。大学時代は相撲部だったという男で、押しは強いが融通の利かないタイプだ。
「まもなく、その曾根崎君がここに来ることになっている。すぐに引き継ぎにかかってくれ」
その言葉が終わるや否や、ノックの音に次いで半沢も知っている大きな顔が覗いた。
「お待ちしてました。どうぞ」