「当初の結果では、彼のセロトニン運搬遺伝子は、わたしが“楽観型”と考えていたものでした。そして、楽観性を確かめる心理テストも、彼がポジティブな出来事に目を向ける人だという結果でした」

 やはり楽観脳は遺伝子で決まるのか、と教授は自信を深めた。

 ところが、詳しく検査をすると、マイケルのセロトニン運搬遺伝子は珍しいタイプで、むしろネガティブな物事に反応しやすい“悲観型”と思われていた遺伝子に近かったのだ。これはどういうことなのか?

「研究を進めたところ、わたしが“悲観型”と思っていた遺伝子は、ネガティブな環境だと悲観的に、ポジティブな環境だと楽観的に反応する“感受性”を強めるはたらきをしていたのです」

脳は大人になっても変化させられる

 フォックス教授は、ふたたびマイケルに会って、その結果について話し合った。マイケルは少年時代、マンガを描いたりバンドをしたりして、保守的な家の中では変わった子だと思われていた。しかし、彼の祖母だけは常にその才能を応援し、彼を支えてくれるような空気をつくっていたのだという。

「わたしの考えでは、幼少時にその環境に支えられていたことが、マイケルの遺伝子を最大限に生かして楽観脳を強くし、楽天的で、逆境でもあきらめない人生観につながったのではないでしょうか」

 やはり性格は遺伝子だけで決まるわけではない。前向きな環境を経験すれば、感情をコントロールできて逆境にへこたれない性格をはぐくめるのだ。

 フォックス教授によれば、楽観脳を強められるのは幼少時だけではない、という研究結果も次々と出ている。詳しくは教授の著書に譲るが、自身の実験でも、悲観的な大人がネガティブなものに注目してしまう偏りを、ポジティブに変えることに成功。英国BBCの科学番組で実験をキャスターに実践してみせた。

「健康的で敏感な楽観脳と、同じく健康的で敏感な悲観脳のバランスが大事です。ネガティブな気持ちを押さえこむのではなく、ネガティブなことがあれば、そのぶんポジティブな気持ちをバランスよくもつように心がけることです。そうすれば脳の回路自体を変化させることも可能なのです」

 『脳科学は人格を変えられるか?』には、楽観脳を強める様々な方法も紹介されている。日々ストレスやプレッシャーにさらされ、暗い気持ちにとらわれがちなビジネスパーソンも多いことだろう。そんな人にこそ、この一冊が楽観的に人生に立ち向かうための参考になりそうだ。