「法律を守ればノルマをこなせないし、ノルマをこなせば法律は守れない。早く郵政を摘発してくれれば(ノルマがなくなって)楽になれるのに」

 首都圏で郵便配達を担当する日本郵便社員が「郵政を摘発してほしい」と言うのだから穏やかな話ではない。

 この社員に課された年賀ハガキの今期ノルマは6000枚。ほかに「イベントゆうパック」(配達にゆうパックを用いる食品や名産品のカタログ販売)のノルマも年間70個ある。

 昨年までは郵便配達先で「年賀状とゆうパックはいかがですか」と声をかけたり、郵便受けにチラシを入れるなどして、青息吐息でノルマを消化してきた。

 ところが、12月から改正施行された特定商取引法によって、その手が安易に使えなくなってしまったのだ。

 特商法改正によって、年賀ハガキやゆうパック販売は、郵便配達のついでなら訪問販売、チラシなら通信販売、電話を使えば電話勧誘販売扱いとなり、新たな法規制の対象となった。

 たとえ郵便配達のついでに年賀ハガキを販売する場合でも、販売事業者の名称を名乗り、販売目的による訪問であることを告げ、販売できた場合には契約書面を交付し、クーリングオフの説明までしなければならない。

 「郵便配達のついでに、『日本郵便の社員です。本日は年賀状の販売目的でお邪魔しました。年賀状を買っていただけるなら、署名捺印をお願いします』なんて言えますか。そんなことできるわけがない」と現場からは怨嗟の声が上がる。

 日本郵政は特商法遵守のための販売マニュアルを作成し、繰り返し現場にコンプライアンス(法令遵守)の徹底を伝達している。しかし一方で「年賀状のノルマはなくならないので、(特商法に定められている)ややこしい手続きを抜きにして売っていくしかない」(現場社員)。「今年も20枚ほどお付き合いいただけますでしょうか」では法律違反なのだが、現実にはこんな「訪問販売」がまかり通っている。読者諸兄にも思い当たるフシはないだろうか。

 冒頭の日本郵便社員は自分で年賀ハガキを買い取り、即座に金券ショップに売り飛ばす「自爆営業」でノルマを消化した。「法律を厳守するつもりなら、郵便配達先では売れない。今年は例年にも増して自爆が多いんじゃないかな」と眉をひそめる。

 なお、特商法に違反する行為はもちろんのこと、日本郵政では年賀ハガキのノルマ設定も自爆営業も、コンプライアンス違反行為として厳重に禁止されている。だが、当の本社がブレーキを踏みながらアクセルをふかすような指示をするものだから、こうした悪弊はいっこうになくならない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 小出康成)

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